1.《ネタバレ》 ロジェ・ヴァディムと言えば『血とバラ』、『血とバラ』と言えばロジェ・ヴァディムと語られるほど有名ですが、現在なかなか観る機会がない作品です。原作はレ・ファニュの小説『吸血鬼カーミラ』ですが、ヴァディムは舞台を現代に置き換えてお得意の官能的で耽美な映像を見せてくれます。 「ご先祖さまは吸血鬼だった」という貴族のメル・ファーラーとその従妹アネット・ヴァディム、ファーラーのフィアンセであるエルザ・マルティネリ、彼らの三角関係に甦った吸血鬼ミラーカの霊が割り込んでくるというのが大まかなストーリーです。ヴァディムの役名が「カーミラ」で、ご先祖の女吸血鬼が「ミラーカ」というのがちょっとややこしいところですが。 まあ前半はとても60年代の一流監督が撮ったとは思えない冗長な展開でがっかりさせられます。ところがですね、突然映像がモノクロに変わる幻想的なラスト15分間は、なるほど本作が語り継がれているわけだと納得させられる素晴らしさです。カーミラのドレスに沁み込んだ血だけが赤く輝きを発するところなど、『天国と地獄』の有名な煙突の煙に匹敵するインパクトがあります。この映画では、ミラーカが甦るところや吸血するところなど直接的なシーンがなく、すべての出来事がアネット・ヴァディムのメル・ファーラーへの恋心からくる妄想ともとれる撮り方をしているのも特徴です。アネット・ヴァディムは当時のロジェ・ヴァディムの奥さんですが、演技は大根ですしルックスもレベッカ・デモーネイを田舎くさくした感じですが、エルザ・マルティネリとのレズっぽいシーンなどはハッとさせられます。そう言えば、私が観たバージョンはアメリカ公開版で、レズシーンなど官能シーンを15分近くカットしたものらしいです。完全版を一度観てみたいものです。