8.《ネタバレ》 下関市役所では個人情報を出さないのに、民団の事務所ではコピーをホイホイ提供していたのは苦笑したが、まあ民団では日頃からそういう業務が重要だということなのかも知れない。あるいは、日本人は冷淡で情が薄い、とかいう皮肉のつもりだろうか。
それで内容としては、差別だとかいうのをあまり気にしなければ普通に心温まるお話である。また途中から在日の話に移行するのも、実はそれほど不自然には思わなかった。実際こういう取材の仕事をしていれば、途中で当初想定と全く違う背景事情がわかって来て収拾に困ることもありそうだし、そのような展開をそのまま映画に取り入れたといえなくもないからである。ただ自分はあらかじめどういう映画かわかって見たわけだが、公開当時の宣伝がどうだったかは知らないので、騙された気になる人が多かったとすればそれも否定できるものではない。
一方、最終的にはどうやら父と娘の関係がテーマになっていたようだが、それと在日の話をからめる必然性はよくわからず、また登場人物の映画愛も半端な扱いで終わっていて、どうも全体として焦点が定まっていない印象が残る。
それでもまあ心温まるお話に一応なっていると思うのは、穏やかに見える人物が多いせいだろう。特に藤村志保さんが全体の印象を柔らかくしていると思えるが、個人的には夏八木勲氏が意外に温和な父親役だったのも少しほっとした。
そのほかキャストに関しては、劇中の“良江さん”や若い頃の“宮部さん”は、いくら昔の話でも化粧っ気がなさすぎに見えるのが個人的に不満で(この女優2人を見るのも目的のうち)、特に“良江さん”の方は役柄上、もっと普通にきれいな女性に見えないと困るのではないかと思う。ただ、とりあえず主演女優をゆっくり見られる映画だという点では基本的に満足だった。
なお些細なことだが、最後に父と娘が再会した場所の選定はかなりわざとらしい。これは地元の文化財(王朝時代の郷校)であり、観光資源ではあるかも知れないが、こんなところでハーモニカを吹いている者はいないだろう。それから昔の話を白黒にするというのはよくあることだが、そのせいで当時すでにカラーだった映画まで白黒に見えているのは絶対に変だ。