4.《ネタバレ》 私はこの作品を観て、初めて音楽に泣かされてしまった。
ミュージカルだとジャンル分けされていたが、
ミュージカルのような異世界の話ではなく、
音楽が俳優達と見事に共演し、ストーリーを絶妙に組み立てているのだ。
多くは語らなくても、出演者達の名前がなくても
この作品は立派な映画として成り立っている。
必要なのは、設定じゃない。
心に響いてくる音楽だ。
ダブリンの街角で出会った男と移民の女の子。
男はストリートで歌うミュージシャン。
別れてロンドンに行ってしまった恋人を忘れられない
女々しい男。
娘と母親とチェコからやってきた女の子。
花やビッグイシューを売る彼女はピアニスト。
この2人が出会った瞬間、ストーリーは音楽と共に
駆け足で2人の人生を変えていく。
音楽に国境はない。
そういった言葉からも分かるように、2人が親密になるのに
言葉はそんなに必要なかった。
同じ音楽に対する情熱が2人を惹き付ける。
わずか1ヶ月以内の間にお互いの家を行き来するようになり
男はデモテープを作り、ロンドンに行く夢を現実のものにする。
もちろん、その背景には彼女との出会いがあったから。
彼女が男をやる気にさせ、2人の奏でる音楽が共鳴し合ったのだ。
人を好きになるのに、理由や時間は必要ない。
例え、他に恋人がいたとしても、好きという感情は
止められないものであり、ピュアなものでもある。
この作品は、友達以上、恋人未満の微妙な心の揺れを
見事に私達に見せてくれた。
どうしようもできない自分の感情。
好きだけど今の関係を壊したくないキモチ。
そしてこの関係が2人にとって心地良いことも
2人は重々理解し合っていた。
だから彼女は彼の家へ行かなかった。
だから彼もロンドンへと旅立った。
わずかな時間でも、2人のキモチは共鳴し合った。
それをお互い認識していたからこそ
2人は強くなれた。
前へ進めた。
お互いの為に、2人は別々の道を進み
幸せにならなければならない。
2人が結ばれるチャンスはいくらでもあった。
けどお互いそれを我慢して、この結論に達した。
だからそれを無駄にしてはいけない。
もう2度と2人は再会できなくても
2人の関係は永遠に2人の中に生き続ける。
2人が共鳴し合った音楽のように。