3.本作の脚本は巧みです。
ちょっとした登場人物の行動を、後になって他のキャラクターが反芻をします。
なんでもないようなシーンが、後に重要な意味を持つようになります。
いろいろなことが「後で気づける」のです。
脚本家になりたい方、将来映画の仕事に携わりたい方は、この映画を観て学べばよいのではないでしょうか。
地味な映画に思えますが、凡百のお金をかけた映画よりも細かな工夫がされているため、全く退屈することがありませんでした。
本作で描かれるのは①母と娘の確執②夢に破れた&向かう人へのエールです。
①は普遍的なもので、多くの人の共感を呼ぶでしょう。
本作で描かれる母親は、いい母親ではありません。
離婚をしてから長年子どもの前に姿を見せなかったため。娘と息子からうっとおしく思われてしまいます。
母親役の余貴美子の演技がまた素晴らしく、端々に「母親特有のウザさ」がにじみでています。
おかげで娘役の堀北真希に感情移入しまくり、気持ちがわかりまくるのです。
母親に対して「うっとおしいと思うこと」「素直になれないこと」は、後の主人公の想うことに強く関係しています。
そのことがわかる終盤の展開は、涙でスクリーンが見えないほどのものでした。
②は監督の前作「ばしゃ馬」でも描かれたことです。
主人公の麦子はアニメオタクで、声優学校の進学を希望しています。
バイト先のアニメショップでは勤務中にノリノリでアニメ声を練習(?)しています。
堀北真希がアニメオタクとして描かれる作品は、おそらくこれが最初で最後でしょうね。
麦子は「これから夢に向かおうとしている(ちょっとダメな)若者」の象徴でしょう。
母親も、かつてはある夢を持っていました。
現在はくたびれた中年女性になっており、その生活はいいものとは到底思えません。
夢に破れた彼女が、どういう人生を歩んでいたか、その人生に意義があったのか、そして幸せだったのか・・・
観た後は、そのことを考えてみることをおすすめします。エンドロール後にもおまけがありますよ。