40.《ネタバレ》 「意思を持った車と人間との交流を描いた映画」といえば、ハートウォーミングな内容が多いものですが、本作はホラー物。
しかも車が女性であるという点が、今観ても画期的ですね。
「冴えない駄目男だった主人公が、悪女と出会う事によって逞しく生まれ変わるも、結局は悲劇的な結末を迎えてしまう映画」として捉えても、充分に楽しめる内容になっています。
主演のキース・ゴードンも、これまた良い味を出しており、冒頭の「水溜りをパシャパシャ踏みつけながら母親から弁当を受け取る姿」だけでも(なんか……頼りない感じだなぁ)と思わせてくれるんだから凄い。
クリスティーンと出会った後の「カッコいい不良」的な風貌も見事に決まっており、周りから「アイツは変わっちまった」という扱いを受けてしまう事について、確かな説得力を生み出していたと思います。
ただ、そんな彼の存在感が、この映画の欠点にも繋がっていて……
観客としては、彼が演じるアーニーこそが主人公と信じて疑わなかったのに「主人公の親友で、良い奴」枠かと思われたデニスの方こそが真の主人公だったと明かされるという、ちょっと歪な構成になっているんですよね。
確かに画面に登場するのはデニスの方が先だし、ヒロインであるリーに最初にアプローチをかけたのもデニスなのは分かるんですが、やはり観客としては出番が多く、家族の描写なども多いアーニーの方に感情移入してしまいます。
だからアーニーの死後、デニス達とクリスティーンの戦いをクライマックスに持ってこられても、ちょっとノリ切れないし、最後も「アーニーを助けられなかった……」という彼らの後悔の念と共に終わる為、後味も悪い。
せめて、もっとデニスの比重を増やすなり何なりして「ダブル主人公制の映画である」と、序盤から感じさせて欲しかったところです。
その他、気になる点としては「メーターがカウントダウンのように下がっている描写の意味が分からなかった(クリスティーンの寿命を示してる?)」とか「冒頭では優しい母親にしか思えなかったのに、実は支配的な性格の母親で息子のアーニーは長年迷惑していたという展開になるのに違和感がある」とか、その辺りが挙げられるでしょうか。
とはいえ、長所も数多く備えている映画であり、視覚的、聴覚的な意味でも、様々な楽しさを与えてくれましたね。
車体の色が、さながら女性の口紅のようなクリスティーンの姿を見ているだけでも惚れ惚れさせられるし、BGMには(やっぱりカーペンターの音楽は良いなぁ……)と実感させられるしで、それだけでも満足度は高め。
親に買ってもらった車ではなく「自分でアルバイトして貯めた金で買った車」という設定なのも絶妙でしたね。
アーニーがクリスティーンに愛着やら独占欲やらを抱く気持ちも、良く分かるというものです。
建物に挟まれた、車の幅とピッタリサイズの道をクリスティーンに追い掛けられている場面なんかは「どうやっても逃げられない」感が伝わってきたし、炎を纏って追いかけてくるクリスティーンの姿なんかも、迫力があって好き。
単なる「悪女」「恐ろしい車」で片付けずに「ロックが好き」「人間の彼女にヤキモチを妬いてしまう」など、クリスティーンを(可愛いやつだな)と感じさせる部分がある事も、大いに評価したいです。
最後は、お約束の「まだ怪物は死んでいない」シーンで終わるんですが、そんな風にクリスティーンの魅力も描いているからこそ、完全なバッドエンドとは思えない形になっている訳ですからね。
彼女の視点で考えれば、愛するアーニーを奪われた復讐をまだ諦めていないという、歪んだ「希望」を感じさせる結末にもなっていると思います。
観賞後は「人でも車でも、やっぱり女ってのは怖いもんだなぁ……」なんて、笑って呟きたくなるような、面白い映画でした。