12.《ネタバレ》 ハリウッドに渡ったアルフレッド・ヒッチコック監督が、イギリスに戻って撮った映画「舞台恐怖症」は、いろいろといわくつきの映画のようで、ヒッチコキアンからの評判はよくないようですが、私はそこそこ楽しめましたね。
何と言っても一番の見どころは、「マレーネ・ディートリッヒ」ですよね。この女優の代名詞のような大女優が、この映画でも実に妖艶な魅力を振りまいています。
役柄も舞台女優ということで、なおさら臨場感がありますしね。短いですが、歌を歌うシーンまであります。
この映画は「嘘」について考えさせられる部分があります。冒頭で、主人公のイヴ(ジェーン・ワイマン)の恋人ジョナサン(リチャード・トッド)が、人を殺してきたと告白し、その再現映像が出てきます。
この告白に嘘があるわけなのですが、それをそのまま映像として、我々観る者に見せてしまったのはヒッチコック監督の失敗だと言われていて、なるほどなと思いました。
登場人物のつく嘘はいいけれど映像の嘘はいけない、ということなんですね。
確かに、そうなのかもしれませんが、ただそれだけの理由で、この映画を失敗作だと言うのは少し言い過ぎではないかと思います。
ヒッチコック監督自身も、冒頭の回想シーンについては反省していたそうで、そこは弘法も筆の誤りということもあるわけなので、大目にみたいと思いますね。
いわくのもうひとつは、ジェーン・ワイマンです。ディートリッヒのあまりの美しさに嫉妬して、自分も途中からどんどん綺麗な格好をして画面に出てくるようになってしまった、という撮影裏話には思わず笑ってしまいます。
いくら頑張っても、大女優には勝てないと思いますけど、ヒッチコック監督は、ワイマンの我儘を聞いてあげたということなんですね。
ヒッチコック監督の映画には、そこはかとなく漂うユーモアのセンスがあって、それがたまらない魅力になっていると思います。
ただ、彼の映画が全部、目も覚めるような傑作ばかりというわけではないことを、この映画が教えてくれているような気がします。
しかし、ディートリッヒの美しさ、冒頭のいわくつきの回想シーン、射的で人形を取るシーン、隠しマイクを仕込んで劇場全体に声を響き渡らせてしまうシーンなど、見どころもたくさんある映画だと思います。