8.《ネタバレ》 黒塗りの車が幾台も通り過ぎていく。少し間隔を空けて2台の黒塗りの車がやってくる。カメラは徐々にバンクしながらクレーンダウンして行き、丁度車がカメラに対しての真俯瞰の位置に来た時、流れていた映像がストップモーションとなり、北野映画初となったシネマスコープサイズのスクリーンいっぱいが車一台で埋め尽くされ、タイトル「OUTRAGE」が刻み込まれる。そして映像は再び流れ出し、2台の車が走り抜けて行く後姿を映す。その背景には、樹々が生い茂っているのだが、更にその奥には都心部のビル群が建ち並んでいる。この映画でこれから起こる抗争の舞台となる「都会」だ。このワンショットを観ればこの映画が傑作であり、これが北野映画の上手さだと誰もが直ぐにわかる。
この映画の畳み掛ける台詞と暴力の応酬は、物語など殆ど宙吊りにし、途轍もない速さで映画を展開していく。しかし物語を忘れているわけではなく、物語は物語として成立している。つまり物語を引っ張っていく映像なのだ。映像が物語を形成するという、映画として最も正しい形をこの映画は導き出す。
そして顔だ。常に笑みを浮かび続ける椎名桔平、それと対照的に色眼鏡を掛け笑みを見せない加瀬亮、北村総一朗にひっ叩かれたとき絶妙の表情をみせる三浦友和、そしていかにもずるさが滲み出ている北村総一朗と國村隼、喜劇役者と化した石橋蓮司、成功を夢見るも決して成功を得られそうにない杉本哲太、また真逆に成功を得るために生きていくかのような小日向文世、など主要キャストのみならず映画に登場するすべての役者、彼らの顔がクロースアップのワンショットとして幾度となく繰り返されるが、そのどの顔もすべて完璧であり、彼らはその為に最高の芝居をしている。
北野武久々のやくざ映画「アウトレイジ」は、北野映画が日本映画の中でも間違いなく最高峰であり、そして賢く、そして何より上手く、更には無駄な意味など持たせずともただ単純に面白い映画を作れるのだという証明である。
「会長、オレには?」「バカヤロウ」ストップモーション、最高の終幕である。