131.《ネタバレ》 最後のほうで、ヴァルツとブラピの取引条件について了解する、電話ごしの司令部の人間の声(チョイ役)が、ハーヴェイ・カーテイル。ほんのちょっとだけ声の出演だなんて、なんてシブイんだ。そしてなんて贅沢なんだ。
「ゼロ・グラビティ」で宇宙飛行士が通信するNASAのひととのやりとりの声(チョイ役)がエド・ハリスだっていうことくらい贅沢だ。
あと心ひきつけられたのは、ショシャナがレストランに呼ばれて席についたときにグラスにつがれたもの、あと酒場でスバイ女優と落ち合ってた場面で、お店の人がグラスについだのが、ペリエのシャンパンだったってこと。
あのシャンパンの瓶、フランスのアール・ヌーボの時代にエミール・ガレがデザインしたアネモネが描かれてるんですがとっても美しくて、以前オークションでその瓶(カラの瓶のみ)を落札して家に飾ってあるくらい好きだったので、「あ、うちにあるのと一緒じゃんよ!」ってなんかうれしかった。
3デイズでワルのボスの家んちの壁紙がうちの居間のカーテンの柄と同じ、イギリスのアーツアンドクラフツ運動を牽引したウィリアム・モリスの「コンプトン」柄だったが「あ、うちにあるのと一緒じゃんよ!」ってうれしかったのと同じくらいうれしかった。
話を戻すと、最後の映画館焼却場面で、スクリーンが燃えきってなくなっているのに、火炎の煙が白くもくもくたちあがってて、その煙に、まだ映写機から送られてきているショシャナの顔が、煙に写り込んでたシーンは、いやもう、かっこよすぎる。タランティーノのセンスすごすぎる。
煙は不安定だから、映った顔があやしげにゆがむ、で、そのままヒトラーの顔面をドニーがうちまくって顔が崩壊していく画面にきりかわるんですが、不安定な煙にうつされて歪むショシャナの顔と、連射されて顔が崩壊するヒトラーの顔のリンクが最高に素敵。
映画館でナチス焼却計画実行する直前、ショシャナがドレスを着て赤い塗り頬紅をグイっとほっぺたに塗るシーンも好きです。
ちなみに「ショーガール」のノエミも、復讐に出かける前にドレスを身につけ鏡に向かって赤い口紅をグイっと塗りますが、赤は復讐の象徴なんでしょうか。
ショシャナの真っ赤なドレス、真っ赤な口紅。真っ赤な頬紅。それらの真赤な色は、彼女に想いを寄せる軍人に返り討ちにあって射殺されて倒れたときの顔に真っ赤な血ともリンクする。
血の魔術師タランティーノ、素敵すぎるセンス。
そして忘れてはならない、クリストフ・ヴァルツの存在。彼が登場人物とからむシーンはいちいち緊張感でいっぱいです。
フランス人農夫とのからみ、レストランでショシャナとのからみ、映画館でのアルドら4人とのからみ、そしてハマーシュマルクとのからみ・・・
そう、ハマーシュマルクの”靴が合えば疑いはない”の状況は、まるでバッドエンド展開のシンデレラてな具合で、さぐったポケットの奥に自分の靴を手の先に感じた彼女の悲壮感あふれる顔が忘れられません。
でも一番この映画を魅力的にしているのは、英語、ドイツ語、フランス語・・・が、登場人物の国籍そのままに使い分けられているところではないかと。
アメリカ映画においては、ナチを描く作品のほとんどが、ドイツ人でも普通に英語でしゃべるため、「イングロリアスバスターズ」のようにとことん登場人物の国籍と母国語をセットにした脚本は、この映画の設定や内容があまりにもブっとんでリアルさが時として失われがちなところに、みょうなリアリティを与えてくれる効果を有しているといえそう。
またこうした言語の使い分けがあるからこそ、冒頭のフランス人農夫とランダ大佐のフランス語→英語→フランス語のやりとりの面白さや、酒場でドイツ仕官に扮したイギリス人のドイツ語なまりがバレたなんだのシークエンスの緊張感、さらに映画館でランダ大佐とイタリア人に扮したアルドらのやりとりの滑稽さが描けるわけで。
ここまで各国語を玉手箱のようにちりばめた映画は、タランティーノ作品では類をみないし、また世界の映画作品全体をみても例がないのでは。
そういう意味では「イングロリアスバスターズ」は非常にユニークで、レアな作品だといえる。