16.《ネタバレ》 想像以上に“いびつ”で、“混沌”とした映画であったことに驚いた。
もっと大衆向けの感動映画なのかと思っていて、それがこれまで今ひとつ食指が伸びなかった理由でもあったけれど、想定外の映画の世界観に心が掴まれたことは間違いない。
この映画は、スティーブン・スピルバーグのイマジネーションと深層心理が混ざり合った、ある意味極めてパーソナルな作品なのではないかと思う。
映画の序盤からラストに至るまで、「不可解」という言葉が常に寄り添う映画だった。
解消されるものも、解消されないままのものもあり、壮大なエンドロールを経て、「一体、何だったのだろう?」という思いがポツンと残った。
きっとそのことが、望んだ娯楽性に合致せず、この映画を嫌う要因になっている人も多いだろう。
ただ僕は、その「不可解」さこそが、スピルバーグがこのSF映画に込めたかったものだと思えてならない。
“科学的に説明のつかないもの”を不可解と認め、追求し続けることこそが、「科学」なのだと思う。
したがって、最後まであらゆる状況や言動に対して明確な「理由」を示さなかったことこそが、この映画が「科学」に対して極めて真摯であることの証明だと思えた。
“いびつ”で“混沌”としたストーリーに「粗」は多い。個人的に主人公の言動には終始共感出来なかった。
けれど、泣ける。
分かりやすい涙は流れなかったけれど、主人公が選んだ道、いや選ばざるを得なかった道に対して、心がさめざめと泣いていた。
壮大で感動的な映像と音楽に彩られているが、この映画のラストは、決して“ハッピーエンド”ではない。
人生に拭いされない違和感を感じ続け、結局自分のことも家族のことも幸福に出来なかった寂しい男が、唯一の“よりどころ”を盲目的に追い求め、そこにすがらざるを得なかったという話だ。
「希望」はもちろん描かれているが、代償となる「喪失」も確実に存在している。
この物語から滲み出ているものは、描き出したスピルバーグ監督自身が抱える葛藤なのだと思う。
自分自身も含め、"ある種”の人間の本質を生々しく切り取った映画であるからこそ、多くの人の心に吸いついて離れない作品に成ったのだろうと思う。
正体不明の物体が靄の中に見え隠れする映像が象徴するように、観た者の心にも靄を残す映画だ。
故に傑作であることも間違いない。