5.《ネタバレ》 北朝鮮を支持する団体の幹部であった父と、日本で在日として生まれ育った娘。
二人の間には、思想という点で、どうしても埋められない溝があった。
それは、どんなに父娘が愛し合っていても、埋められない溝だ。
日本で北朝鮮の思想活動を人生を賭けて行ってきた父親だが、老齢になり活力も失われつつあった。
そんな父親に、娘が「韓国籍」を取ってもいいか、と質問するシーン。
娘に幸せになってもらいたいという思いが頭をもたげ、韓国籍になることを許す言葉をひねり出す。
北朝鮮の思想を生涯信じ続けてきた男としての父親と、愛する娘の幸せを願う父親とが交錯し、葛藤するシーンだ。
父親は誰だって、娘に幸せになってもらいたいと心の底から願っている。
だけど、どうしても譲歩できない部分がある。
そんな葛藤から意を決してひねり出した言葉が、娘に韓国籍になることを許す言葉だった。
娘を持つ父親なら、感情移入できる部分に違いない。
それと、本作は北朝鮮の風景や人間たちを映像に残しているという部分でも、非常に貴重な作品である。
ピョンヤンの映像を撮った監督の勇気に敬服する。
個々の人間がそれぞれに持つ思想や価値観。
それを上回るものは、親の子供に対する愛情であった。
あらゆる試練や苦難を乗り越えてきた一人の男の、死に瀕するまでの過程を描いたドキュメンタリーで、人間の生き様、人間の業というものを深く考えさせられる作品であった。