1.街頭ロケーションを活かしながら、縦構図、横移動、俯瞰と豊かなバリエーションを駆使して描写される、捜査員と容疑者の尾行シーンの緊迫感が素晴らしい。東宝俳優陣を配した『彼奴を逃すな』の住宅街における尾行シーンのサスペンスも見事だったが、それに4年先立つこの新東宝作品は無名俳優及びゲリラ撮影的効果と相俟って一段勝る迫真性を獲得している。大勢の通行人たちが逃走する容疑者を取り押さえる中盤の群衆シーンのスペクタクルは圧巻だ。街路を俯瞰するロングショットに同時録音と思しき現場の生々しい喚声がかぶり異様な高揚感を生む。さらには、列車での尾行シーン。横浜駅ホームに到着する列車から飛び降り、そのまま階段を駆け上がる丹波哲郎のアクションを捉えたショットなどは非常に充実している。あるいは逃走車両が農道から落下横転する危険なスタントシーンをワンショットで捉えたカーチェイスの迫力。そしてクライマックスの下水溝では水面の照り返しを活かした揺れる光と闇、アフレコによる水音の効果が最高の緊張感を醸成する。これら無音と環境音の組み合わせによる音響効果の妙もやはり後年の『彼奴を逃すな』で結実することになるだろう。