★1.《ネタバレ》 主演は60年代から活躍する怪優オリヴァー・リード。この人は名匠キャロル・リードの甥という血筋ながらも、数ある出演作で正統的なヒーローを演じたことが一度もないんです。言ってみれば、コッポラの甥であるニコラス・ケイジの英国版という感じでしょうか。容貌魁偉で筋肉ムキムキ、典型的なゴリラ俳優です。本作で彼の舎弟分となるのがイアン・マクシェーン、現在でもいろんな作品でバイ・プレイヤーとして活躍中です。実はこの人肉体はともかくとして風貌がオリヴァー・リードにそっくりで、私は『空軍大戦略』に出演していた彼のことをてっきりオリヴァー・リードだと長いこと勘違いしていたぐらいです。この二人に絡むのがジル・セント・ジョン、『ダイヤモンドは永遠に』にボンドガールとして出演したぐらいで、これまた典型的な悪女キャラの女優です。本作はこの濃ゆいトリオの相乗効果のおかげで、B級ながらも独特のテイストを持っています。 邦題通り、開始から三分の一はオリヴァー・リードとイアン・マクシェーンの脱獄するまでの描写に費やします。ジルはリードの妻で、刑務所に面会に来て「わたし男ができて妊娠したの、だから離婚して」と身も蓋もないことを言い出します。この面会シーンは、アクリル・ボードに映るジルの表情とリードを同じ向きで撮影したスプリット・フォーカスで、B級映画とは思えない凝った映像でこの映画の中でもっとも印象に残ったショットです。でももっとすごいのは逆上したリードが素手でボードを突き破ってジルを絞め殺そうとする次のシーンで、普通なら「やり過ぎでしょ」となりますが、オリヴァー・リードなら出来そうな感じです。というわけで、裏切った女房を殺したい一心で脱獄するわけです。リードが刑務所にぶち込まれたのは強奪事件を犯したせいで、その時の収穫20万ドルはどこかに隠していて、弟分はどうもそれがお目当てみたい。でもリードは女房を殺すことに夢中で、強奪金の隠し場所についてはガードが固い。リードが脱獄して早々に入手するのが、モーゼル・ミリタリーという渋すぎる銃です。こいつはストックが付けられて自動小銃みたいに連射もできる優れもの、でも劇中ではその後あまり使われていなかったのは残念でした。 銃を手にいれた凶暴なリードには女房は簡単なターゲットだったはずでしたが、ところが物事はそう簡単には進みませんでした。後半にはちょっとしたどんでん返しまであり、つまりは女房ジル・セント・ジョンはやはり一筋縄ではいかぬ悪女だったというわけです。無常観が漂うラストはニューシネマ風でしたが、全編に英国ノワールらしい暗さがいい雰囲気でした。脚本家は『殺しの分け前/ポイント・ブランク』を書いた人で、町山智浩氏によると両作は語り口を変えた同じ話しだということです。 【S&S】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-11-10 21:29:47) |