9.《ネタバレ》 1943年の「家路」で映画デビューを果たし、以後、「緑園の天使」(1944年)、「若草物語」(1949年)、「花嫁の父」(1950年)、「陽のあたる場所」(1951年)と、天才子役からアイドル女優へと順調にキャリアを伸ばし、その後、ハリウッド映画界を代表するスター女優となり、美人女優の代名詞ともなったエリザベス・テイラー、通称リズ。
エドワード・ドミトリク監督、モンゴメリー・クリフト共演の「愛情の花咲く樹」(1957年)、リチャード・ブルックス監督、ポール・ニューマン共演の「熱いトタン屋根の猫」(1958年)、ジョセフ・L・マンキーウィッツ監督、キャサリン・ヘプバーン、モンゴメリー・クリフト共演の「去年の夏突然に」(1959年)と3年連続でアカデミー賞の最優秀主演女優賞を逃し、ようやく、このダニエル・マン監督、ローレンス・ハーヴェイ共演の「バターフィールド8」で念願のオスカー像を獲得した、いわば彼女にとって記念すべき作品になったわけです。ただ、リズ自身は、この映画での役をあまり気に入らず、完成した映画も観ていないと言いますから、皮肉なものです。
確かに、この映画での演技は彼女のフィルモグラフィーの中でも、特に優れた演技だったとも思えず、同じ年の他のオスカー候補の女優が、「ルーズベルト物語」のグリア・ガースン、「サンダウナーズ」のデボラ・カー、「アパートの鍵貸します」のシャーリー・マクレーン、「日曜はダメよ」のメリナ・メルクーリという事で、強力なライバルが存在しなかった事、リズが過去3年連続で受賞を逃している事、当時、「クレオパトラ」の撮影中にかかった肺炎でかなり病状が悪かったという事に対するアカデミー会員の同情票が集まったからではないかと言われています。
この映画「バターフィールド8」は、通俗的なメロドラマで、リズが演じたのは、コールガールのグロリア。本業はモデルなのだが、過去の男性遍歴の中でトラウマを抱えていて、刹那的な生き方をしている彼女の電話で指名される時の電話番号が、"バーターフィールド8"。
そんなグロリアが客の一人として、出会った妻子持ちの名家の男性ローレンス・ハーヴェイ。この男優は、「ロミオとジュリエット」(1954年)のロミオを演じてブレイクし、眉目秀麗な二枚目俳優として、その後も「年上の女」「アラモ」などに出演しましたが、それらの中で私が一番印象に残っているのは,ジョン・フランケンハイマー監督の、東西冷戦下の中で暗殺者として洗脳された男の姿を戦慄のサスペンス・タッチで描いた「影なき狙撃者」での迫真の演技です。彼は、その後、48歳の若さで亡くなったのが非常に惜しまれます。
映画は、リズとハーベイの不倫の恋の顛末を、俗物的な男のエゴイズムと、それに翻弄される女性の悲劇を描いていきますが、あまりにも通俗的な展開で、映画としてはあまり良い出来映えではないと思います。この映画は、ただひたすら、映画という夢の世界の中で美しく、きらびやかに輝くエリザベス・テイラーというスター女優の魅力に酔いしれる映画なのです。