1.それにしても陳腐な邦題をつけたもんだと思うが,原題は"The Sound Barrier"-つまり音の壁-音速を超えるジェット戦闘機の開発をめぐるイギリス人たちの人間模様が,本作の一貫したモチーフと言える。冒頭,如何にも英国といった感じの田園風景の中,一機のスピットファイア戦闘機が自在に空を舞う。伴奏をかいた当時30代のサー・マルコム・アーノルドは,このシーンを「スピットファイア・バレエ」と呼んだそうだが,さすが若き日のデビッド・リーン。のっけから引き込まれてしまった。後年の壮大なスケール感は求められないものの,全編に流れるヒューマンな感性は後の大作を予見させるに十分である。開発された「プロメテウス」なる戦闘機はもちろん架空のものだが(ネーミングが英国風でなく安易だが),作中,バンパイアとかデハビランド・コメットとか戦後機マニアには垂涎ものの場面も多々あるし,モノクロ映像の中から鮮やかな色彩感が自然に浮かび上がってくる。リーン監督の作品に感銘を受けた方や英国贔屓の方,そして戦争映画のマニアの方には是非お薦めしたい。ついでに,アーノルドやサー・アーサー・ブリスといった英国の作曲家たちの映画音楽集が英Chandosから出ているが,これまたお薦めである。