★6.《ネタバレ》 恥ずかしながら小津安二郎がギャング映画的な作品をサイレント時代に撮っていたとは知らなんだが、たしかにこの作品にはハリウッド映画の影響が強く感じられるけど、まあ言ってみればギャングというよりは小津版任侠映画といったところかな。元ボクサーの岡譲二はヤクザというよりは与太者のボス、田中絹代はその情婦だが昼は普通の会社でズべ公の本性を隠し大人しく上品なOL(当時は女事務員と言うのが正しいか)なのである。手下には“姐御”と呼ばれる存在なのに、言い寄ってくる社長の息子の副社長をおぼこっぽいふりをして貢がせるしたたかな女です。岡のグループに入ってきた不良学生には姉がいて、弟を更生させようとする彼女と出会ってから、岡の与太者稼業が思わぬ展開になってくるんです。 確かに本作はギャング・任侠的な要素が濃厚ですけど、さすが松竹らしく女優を愛でる映画なんです。戦後の田中絹代しか知らなかった自分ですが、当時20代半ばの田中の顔つきの幼さには驚かされました。これじゃ昼間のOLはともかくとしてもギャングの情婦という役柄はミスキャストという声があるのも止むを得ないかもと思います。でも演技力は確かなもので、終盤の展開ではなんかホロリと来るものがありました。しかしなんといっても姉役の水久保澄子を知ることが出来たのは大収穫でした。松竹歌劇団出身の彼女は当時まだ17歳、その目を引く美貌は元祖アイドル女優とも言われているのは納得です。そんな将来を嘱望されていた彼女ですが、自殺未遂を図ったり移籍した日活ではいろいろと揉め事を起こした挙句に35年にフィリピン人と電撃結婚して渡比、2年で離婚して帰国したけど映画界からは追放状態でその後映画出演はありませんでした。本作を観る限りでは美貌だけでなく引き付けられる演技力も持っており、このままキャリアを積めば原節子並みの大女優になっていたかもしれないし、実に残念なことです。 【S&S】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2024-11-23 23:10:24) ★《新規》★ |
5.これは中々の掘り出し物。「朗かに歩め」「その夜の妻」に続く小津監督の暗黒街ものだそうです。若い頃の小津さんは本当にチャレンジャーで面白い。ギャングものと言っても銃撃戦はまったくありません。小津監督らしい人情味のあるドラマで最後まで見せてくれます。サイレント時代の小津監督は退屈というものを感じさせてくれません。演出にしても、ジョセフ・フォン・スタンバーグの「暗黒街」をただマネただけではありません。冒頭のタイプライターや落ちる帽子と、細かい部分で凝った演出が見られます。終盤の路地裏のカットも凝りまくってます。さすがに田中絹代だけはミスキャストな気がしますが、それ以外は役に段々馴染んでいく感じ。水久保澄子さんが可愛かった。何故彼女をヒロインにしなかったのか・・・orz 小津ファンには不評との事ですが、私にはかなり面白い作品でした。オススメです。 【すかあふえいす】さん [DVD(邦画)] 9点(2014-01-08 10:51:48) |
4.小津がサイレント期に挑んだ異色作。 人情劇や家庭劇ではなく、ヤクザ映画であり、恋愛ものでもある。 しかし、それは成功しているとは言い難い。 やはり、小津はこの作品を通して、この分野で力を発揮できないことを悟ったのではないだろうか。 田中絹代のズベ公役も言わずもがなミスキャスト。 全く、様になっていない。 【にじばぶ】さん [ビデオ(邦画)] 4点(2007-12-17 22:22:41) |
3.主演の岡譲二の顔に象徴される様に頗るハイカラで硬質な作品。ダーティーで危うい世界で生きるヤクザとズベ公。二人の生活は見掛けはハイカラで洒落ているが虚飾に満ち溢れている。二人はその生活というものが丁度、譲二が田中絹代演ずるズベ公にプレゼントしたネックレスと同様偽物であることを、地道に真っ当に生きて居る一人の女性の出現によって気付いてしまう。レコード屋に勤めるその女性の慎ましくも美しい気高さに感化されてジタバタし始める二人。その証拠に譲二は思わず「音楽って奴は神様が作った物の中でも出来のいい方だぜ」と呟いてしまう。この台詞だけでもこの映画は買いだ!!(サイレントですけど)。それにしても、小津や当時の日本人の美的センスの好さには感心させられる。ギャング達が被るソフト帽がメチャクチャカッコいい!! 【水島寒月】さん 7点(2004-05-02 10:54:30) |
2.田中絹代さんがなんかイメージ違う。逆に宏の姉役なんか田中絹代に合いそうだけど・・・。洋風な感じの雰囲気の映画でした。時計が結構映るのが印象に残った。 【バカ王子】さん 7点(2004-01-11 01:56:42) |
1.奥行きのあるスタイリッシュな構図と、移動ショットを組み合わせたテンポのいいリズム、ルビッチ伝来の省略の妙、ミスキャストとしか思えない田中絹代の、しかし妙にエロティックなドレス姿。ハリウッドスタイルのギャング映画が人情劇に移行する、その自然、粋、もはや大家の風格だ。この時、小津30才。ハリウッドから学ぶものはすべて学んだ、そんな風情が実にいい大傑作。 【まぶぜたろう】さん 10点(2003-12-14 23:25:36) |