14.《ネタバレ》 アンドレ・カイヤットはヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を二度も受賞した存在であるが、最近まで彼の存在は忘れ去られていた。
フランス本国やアメリカでもカイヤットの名は余り聞かない。
知る人ぞ知る存在にすぎなかったカイヤットだが、TUTAYAからもDVDが出たし、今最も再評価が進む作家の一人だ。
というより、非常に日本人好みの映画なのかも知れない。
この「眼には眼を」は一言で言うと、“逆恨み”を極限まで高めた究極とも言える映画である。
復讐者も意地っ張りだし、それに対峙する医者もどうしようもない頑固者。意地と意地のぶつかり合いだ。
「あんたが殺したって言ってんだろ!!」
「あれは事故だっつってんだろうがっボケェ!!」
馬鹿VS馬鹿。
人々の葬儀の様子からはじまるファースト・シーン、画面は病院へと移る。
医者たちの淡々としたやり取りが、やがて壮絶な意地の張り合いへと発展していく。
不幸な偶然が重なり起こる“死”。
助手の「先生なら助けられた!」という一言も妙に突き刺さる。
それと同時に医者の周りで異変が起き始める。
冷たくなった女の顔、その顔が移った写真、
無言電話、
無言で何かを語りかける車、
時々姿を見せるサングラスの男の不気味な影・・・。
アンリ=ジョルジュ・クルーゾーのような徐々に緊張感を高めていくスリルだ。
撤去した筈の車が元通りになっているのもゾッとする。
120kmが空耳で300kmと聞こえた俺は病院行った方がいいのかも知れない。
翌朝よそよそしくなる妹も怖い。
それにしても、長くいて現地語を殆ど覚えていない医者も医者だけど。
ま、密室で付きっきり、通訳もいればそんな気も起こらないだろうか。
それにしたって通訳を連れて来なかったのはおかしい。
せめて帽子くらいは被ろうぜ・・・。
ナイフ投げのシーンやゴンドラの異様な緊張。
医療器具を落としたのも絶対“ワザ”とだろう。
復讐者の変質的な嫌がらせもエスカレート。家族もいるのにこの男は・・・酷い野郎だ。
砂漠の様な場所を延々と歩き続ける。
出血多量になろうがそれすら演技にしてしまう恐ろしさ。
復讐者の体力も凄まじいが、医者も気力でふんばる。
動物の死骸が腐っていく様子が恐ろしい。
医者は余りに絶望的な“良い旅”へと出掛けていく・・・。