135.《ネタバレ》 再見。
激しい銃撃戦といったアクションで魅せる「天使の涙」、本作は恋愛がメイン。
本当に意味あり気なようでけっこうテキトー、意味不明でのんびりした映画だが何故か嫌いじゃない。
ゴダールやトリュフォーにも通じる「いい加減さ」がこの映画にもある。
ある者はその意味のない映像に文句を付け、ある者はインテリや絵画、あるいわ心地良い音楽を聞き流すように受け入れる。俺の場合は後者に近い。
冒頭からいきなり追いかけっこ、手ブレと思いきや一瞬一瞬止めるコマ撮りの演出。
この様子は回想形式で語られ、まるで過去の幻想を見せられるような気持ちになる。
唐突な誘拐事件も、標的も何故彼女がそうするのか理由は語られない。
男と女による交互の回想、終止符を打つ復讐?の弾丸。
国際電話で英語や日本語が混ざり合うカオス。混沌とした文化が拡がる町に生きる主人公の警官。
香港は昔から日本人やらイギリス人やら様々な国の人間が混ざり交流してきた港町だ。三ヶ国語を流暢に喋る人間がザラにいても何も不思議じゃない。94年に公開された時、香港はまだ“外国”だった。
というより、仕事で故郷から離れて生活しているという人間も多い。「心の故郷」であって「生まれ故郷」って奴は少ないだろうな。少なくとも、悪人を追って国境すら越える警官や復讐のために旅をするような人間にとってはその場のしのぎの宿にすぎない。
主人公の警官はどうだろうか。
任務を果たしたはいいが、生きがいとしてきた仕事がなくなり、かったるい日々を送る。そんな彼の心を満たすのが複数の女たちだ。
追ってから逃げる謎の女、売店の少女、客室乗務員(当時は「スチュワーデス」?)といった女たち。
「フィルム・ノワールみたいになるのかな?」と思いきや、序盤のサスペンスは何処吹く風。
終盤はそんな彼の淡い恋模様を延々と見せられる。
だが、不思議と退屈はしない。やたら生活観のある空間に居心地の良さを見出してしまうのだろう。
ゴダールで言えば「はなればなれ」のような・・・とにかく愛らしい、愛すべき映画である。
あの寅のヌイグルミはホワイトタイガーだったのだろうか?
「隠れてないで現実に立ち向かえ」
じゃあおまえも前の彼女は忘れろよ・・・。
思わぬ再会、パスポート、エンドロールが白一色というのも面白い。
あのパスポートで男と女は何処かに旅立つのか、それとも任された店を「第二の故郷」にして永住するのか。それは男と女たちだけの知るところなのです。