14.《ネタバレ》 軋む。
古い車体が、錆びた鉄扉が、そして満身創痍のヒーローの身体が。
不死身だったはずのヒーローが、老い、拭い去れない悔恨を抱え、死に場所を求めるかのように最後の旅に出る。
メキシコからカナダへ。アメリカを縦断する旅路の意味と、その果てに彼が得たものは何だったろうか。
17年に渡り「X-MEN」シリーズを牽引してきた主人公のラストが、まさかこれほどまでにエモーションに溢れた“ロード・ムービー”として締めくくられるとは思ってもみなかった。
シリーズ過去作のどの作品と比較しても、圧倒的に無骨で不器用な映画である。テンポも非常に鈍重だ。
いわゆる“アメコミヒーロー映画”らしい華やかで派手な趣きは皆無だと言っていい。
だがしかし、どのシリーズ過去作よりも、“ヒーロー”の姿そのものを描いた映画だと思う。
個人的に、長らく「X-MEN」シリーズがあまり好きではなかった。
初期三部作における主人公・ウルヴァリンの、鬱憤と屈折を抱え、あまりのもヒーロー然としないキャラクター性を受け入れるのに時間がかかったからだ。
リブートシリーズと、ウルヴァリン単独のスピンオフシリーズを経て、ようやくこの異質なヒーローの本質的な魅力を理解するようになった。
それくらい、このヒーローが抱える憂いと心の闇は深く果てしないものだったのだろうと思う。
そんなアメコミ界においても唯一無二の「異端」であるヒーローが、ついに自らの闇に向かい合い、決着をつける。
おびただしい数の敵を切り裂いてきたアダマンチウムの爪が、これまで以上に生々しく肉をえぐり、四肢を分断し、血みどろに汚れていく。
そして、同時にそのアダマンチウム自体が体内に侵食し、無敵のヒーローの生命を徐々に確実に蝕んでいく。
それはまさしく、“ウルヴァリン”というヒーローの呪われた宿命と業苦の表れだった。
不老不死故に、他の誰よりも、相手を傷つけ、そして傷つけられてきた哀しきヒーローが、ふいに現れた小さな「希望」を必死に抱えて、最後の爪痕を刻みつける。
過去作におけるウルヴァリンというキャラクター故のカタルシスの抑制とそれに伴うフラストレーションは、今作によってそのすべてが解放され、別次元の感動へと昇華された。
それが成し得られたのは、何を置いても主演のヒュー・ジャックマンの俳優力によるところが大きい。
彼は今作で自らのギャランティーを削って、「R指定」を勝ち獲ったらしい。
そこには、“ウルヴァリン”を演じることによってスターダムをのし上がったことへの感謝と、このキャラクターのラストを締めくくる上での並々ならぬ意気込みがあったに違いない。
結果、ラストに相応しい見事な“オールドマン・ローガン”を体現してみせたと思う。
「This is what it feels like(ああ、こういう感じか)」
最期の最期、哀しきヒーローは、ついに“それ”を得ることが出来た。
墓標の「X」が涙で滲む。
さようなら、いや、ありがとう、ローガン。