18.《ネタバレ》 昭和11年の作品。川端の原作が好きなので、「こんなのがあったんか!」と見てみた。 ずいぶんと原作とは手触りが違うが、登場人物たちが入れ替わり立ち替わりしながら、世相を浮かび上がらせる趣向は面白い。 戦前の鄙びた伊豆のロードムービーとしても貴重。上原謙のイケメンぶりや桑野通子のスレた美貌もよい。 特に桑野通子は映画オリジナルの狂言回しとして印象的だし、物語をほのかなハッピーエンド風に導く役割としても良いキャラ。 映像的には、道路工事ではたらくチョゴリ姿の朝鮮人女性との別れのシーンは、トンネルをうまく使ってて印象に残るものがあった。 【せい】さん [DVD(字幕なし「原語」)] 7点(2019-02-13 00:06:55) |
★17.《ネタバレ》 率直には戦前の日本の光景がとても興味深いですね。車事情や道路事情など、言葉遣いや出てくる単語も。そしてどこかのんびりしていつつもさりげなく当時の世相をうかがわせる構成はなかなかでゴザイマシタ 【Kaname】さん [DVD(邦画)] 6点(2016-08-28 20:39:30) |
16.ロードムービーというジャンルがそもそもあまり好きではなく、元々サイレントで撮影され、セリフがすべてアフレコによるもの(!)ということに違和感を抱き続けて終わった。環境音がないというのは不自然の極み。 【カニばさみ】さん [DVD(邦画)] 5点(2016-05-31 00:44:01) |
15.テレビのドキュメンタリー番組のようなロードムービー。悲哀と疲弊に満ちた人々の世相を、これ程までに温かく明るく描き切られている事に感嘆。単なる能天気ではない、酸いも甘いも噛み分けた有りがたうさんが発する「ありがと~」の響き共々余韻の深さが凄い。清水監督は溝口・小津・山中監督が「天才」と呼んだらしいが、納得させられる不思議な味わいを持つ作品。 |
14.《ネタバレ》 心が洗われるような隠れた名作である。低予算でも良い映画が作れる好例だ。伊豆は天城の二十里の街道を悠々と走る長距離バスでの道中物語。牧歌的で快活な音楽が流れる中、舗装道路も電信柱も一切ない、真に鄙びて閑閑たる山村風景が写しだされ、乗客はみな実に悠然たる語勢で会話をする。運転手は道を譲ってくれる総ての人に「有難う」を言うので、付いた綽名が「有難うさん」。鶏にまで礼を言う律義さだ。道行く人から言付けや買い物を頼まれれば快く応じる。心根が優しい上、街道一の二枚目なので、若い娘達は放ってはおかない。シボレーを買って開業するのが夢だ。 一見安穏として朴訥たる乗客の姿に見えるが、その背後には、昭和恐慌の深刻な不景気の影響をまともに受けた農村の疲弊という悲劇が隠れている。 その代表が、身売りに出される娘だ。娘は我が身を恥じ、知人の姿を見れば隠れ、母に何度も説諭されても泣く。東京見学帰りの裕福な娘から声をかけられるが、心は上の空。運転手を思慕する気持ちも見え隠れする。娘に対する哀憐の情を隠せない運転手だったが、簡潔な別れの言葉をかけるのが精一杯だった。 そこに居合わせたのが、酸いも甘いも噛み分ける流れ酌婦風の女。二人の想いを察して、運転手の肩を押すように言う。「シボレーを買うお金があったら、ひと山いくらの女がひとり減るのよ」 ここで大胆な省略法が使われ、次の場面は翌日の帰りのバスの中。身売り娘と母が乗っている。「渡り鳥ならまた帰ってくるがね」「あの人いい人だったわねえ」何があったかはっきりしないが、劇中に「有難うさんも嫁を貰わなくちゃ」とあることから、二人は結婚を決めたのだろう。清新な演出。娘も運転手も峠を越えるように運命を潔癖に受容する。それが「長生きのこつ」なのだろう。 最も憐憫の情を禁じ得なかったのが朝鮮女の逸話だ。流れの道路工夫だった父親が死に、信州に行くので、墓の世話を運転手に頼む。「一度日本の着物を着て、有難うさんの自動車に乗って通ってみたかったわ」駅まで送るというと、女は疲れ果てて山道を歩く同胞の姿を顧みて、「みんなと一緒に歩くの。みんなと一緒に」慎ましい願さえも叶わない、異郷で辛い仕事に従事する女の悲哀。この逸話で作品の重みがぐっと増した。 運転手があまrに現実離れしすぎている懸念があり、好みの別れるところ。 【よしのぶ】さん [DVD(字幕)] 9点(2014-09-06 03:24:34) |
13.山田監督100選で鑑賞しました。戦前の風景と生活が身近に感じられる映画ですが、殆ど可笑しくないコメディです。 【ProPace】さん [CS・衛星(邦画)] 5点(2014-08-28 20:56:38) |
12.清水宏の傑作ロードムービー。戦前が身近に感じられる名作の一つです。 ストーリーは至極単純、のどかな田舎道を延々とバスが走るというシンプルなもの。それだけなのにまったく飽きない。田舎の美しい風景、人々の人情に溢れたドラマ。冒頭から「有りがたう!」のバーゲンセール。どんだけ言うんだよ(笑) どんな時でも感謝を忘れない運転手の人情味。たまに毒づくのも面白い。それに個性豊かなバスの乗客たち。ズケズケ物を言う女性、見栄を張った紳士、赤ん坊を取り上げるために急ぐ医者、売られていく娘・・・様々なドラマを見せてくれます。運転手と娘さんの会話がまた何とも言えません。感謝に始まり感謝に終わる・・・またいつか会えると信じて・・・良い映画です。 【すかあふえいす】さん [DVD(邦画)] 9点(2014-01-07 16:17:24) |
11.《ネタバレ》 実にのんびりしたお話で、時代がよく表れていると思います。バスの停車場で毎回一服というのも、今では考えられません。バスの車内でもタバコを吸っていましたし(笑)。しかしそのため、途中でちょっとだれてしまったのは残念。 お話としては、売られてゆく娘を中心にすえつつ、色々なエピソードで楽しめました。特に桑野通子と石山龍嗣の応酬が楽しい。しかしその桑野通子も、最後の語りで、ああこの人はもう帰ってこないんだろうなと思わせる。売られずにすんだ娘との対比も生きて、なかなか重みのある結末でした。重みといえば、コメディタッチで笑わせながら、要所要所で問題意識を投げかけるあたりもバランスがよくてけっこうでした。 【アングロファイル】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2013-04-29 17:55:36) |
10.《ネタバレ》 清水宏の肩に力の入らない作風に、ぼくもほっとしてます。「よし!今から映画観るぞ」と気構えることなく、ほんじゃ観るか、という感じで観られるので気持ち的に楽です。「たかが映画、されど映画」みたいなスタンスが、ちょっとそこまで、というノリで観られるんですよね。今の映画にもこんなスタンスの作品、欲しいな。でもほのぼのしてる割には、会話の内容の悲惨さと言ったら・・。当時の人はあまり悲壮感持ってなかったのかもね。これくらいの気構えでいいんじゃないかしら?生きるって・・ 【トント】さん [DVD(邦画)] 7点(2013-04-21 09:36:11) |
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9.「ありがとう」「ありがとう」「ありがとうさん」たくさんのありがとうが飛び交う心地よい映画だ。台詞もBGM音楽も、バスも乗っている人も歩いている人も、のんびりのどかですばらしい。感謝する心など現代の私たちが忘れてしまったものがそこにある。だがよくよく見てみると、売られていく娘や在日朝鮮人の人たちなど、時代を反映する悲しい面もある。「道路は造るがその造った道を歩いたことがない」ということばにどきっとした。 【ESPERANZA】さん [地上波(邦画)] 8点(2013-02-21 14:53:37) |
8.おそらくこれを初めて見たときは誰も、登場人物の喋りにびっくりすると思う。ゆっくりした棒読み。なんだこれは! そういう喋り方をする土地なのか、とオロオロしていると、上原謙や桑野通子もそう喋る。トーキー初期の録音技術では普通に喋ると言葉が聞き取れなくなるのか、と気を回す。いや、これより古い『隣の八重ちゃん』は普通に会話してた。呆然としながら考えた末に結論はただ一つ、監督の指示としか考えられない。そしてそう判断したころは、このリズムにこちらが合ってしまって、大変心地よい境地になっている。お年寄りが昔話を語っているような、宮沢賢治の世界のような。トーキー初期はこんな思い切った演出冒険も出来たのだ。子どもらはバスの後ろに飛びつき、女歌舞伎のお披露目と遭遇したり、桃源郷を思わせる。ところが描かれる内容は厳しい不況下の世情なのだ。226の年で、青年将校らを決起させた地方の娘の身売りが、上原謙に「葬儀運転手の方がよっぽどいい」とぼやかせるまでに、車内を重くしている。映画の結末は飛躍のある展開で作品の傷かとも思えたが、あのゆっくりとした喋りで世界が変容されていると、峠を越えることで善意が勝つんだ、と素直に受け入れてしまえた。この前々年に満州国が誕生し、五族協和と「仲良し」が強制的に偽装される時代になったが、本作では朝鮮人の苦衷がキチンと語られていた。まだ厳しい検閲はなかったのか、もし検閲官が見逃していたのなら「ありがとー」だ。車窓風景の映像史料としての価値は計り知れない。 【なんのかんの】さん [CS・衛星(邦画)] 9点(2013-01-04 09:53:22) |
7.《ネタバレ》 有りがたうさんは、何に対して「ありがとう」と言っているのだろう。とりあえずの挨拶みたいなものなのかな。原作は川端康成の、5~6ページぐらいしかない短編。その小説にもありがとうが連呼されてるらしい。なんにせよ有りがたうさんの台詞が、「こんにちは」とかだったら、この作品世界は成り立たないだろう。やっぱり、ありがとう~じゃないといけないんだ。あるいはまた、全編に渡るスローテンポな台詞回し。最初こそ違和感を感じたが、もし劇中に早口でしゃべる人が一人でもいたら、やはりこの作品世界は成り立たない。全てスローでしゃべる人たちだからこそ生み出されるテンポと情感。今でいうところの癒し系ほっこり映画の先駆けみたいなもので、監督の同年代の小津作品にも通じるものがあると思う。峠を超えた女はほとんどが帰ってこない。これはそのときの情勢を言い表してるようだが、そういう大変な時期を映画的喜劇世界で人々を前向きにさせようという、そんな意図を感じる。乗客の女性と髭男爵の会話が印象的。 【あろえりーな】さん [地上波(邦画)] 7点(2012-12-25 13:52:17) |
6.《ネタバレ》 いつまでもこの作品世界に浸っていたいと思いながらこの映画を観ていた。それは上原やその他の出演者が醸し出す温かい人柄だけではなく、短いショットとフェードの繰り返しによって観客に心地よいテンポを感じさせてくれる監督清水の技量によるものではないか。もう一度述べさせていただきたい。時代によって今の観客にはわかりづらい点・録音映像の見辛さは多々あれどこれこそ元祖「癒し系」ムービー、ゆったりと浸っていたい。ほっこり。 【Nbu2】さん [映画館(邦画)] 9点(2012-01-03 10:47:28) |
5.《ネタバレ》 有りがたうさん、少々余所見が多ござんす。それに八方美人な面も。ですから娘さんは旦那の浮気にご用心。ちゃんと旦那の手綱を、いやハンドルを(下品な意味じゃなく!)握っていないと、崖から落っこちちゃうかもしれませんよ。それではまた、有りがたう~。 【目隠シスト】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2009-08-09 19:17:08) |
4.《ネタバレ》 最初はゆっくり過ぎるセリフ回しにイライラしたが、次第に慣れていった。 上原謙の演じる二枚目長距離バス運転手。 これが大モテ。 道中のうら若き女性達に親しげに話しかけられ、話しかける。 こりゃ羨ましい。 画面を通して、まるで自分がモテモテになったかの様な感覚をおぼえることができて楽しい。 ヒゲの初老男性と桑野通子が演ずる毒気のある女性との会話が面白い。 その女性がお酒をバス内で他の客にふるまう。 しかし文句ばかり言ってきた初老の男性にはお酒をあげない。 それを見たヒゲ男性は当然面白くなく、「バスの中でお酒は禁止じゃないのか」と文句一つ。 それに対し、その女性はそのヒゲ男性にも「じゃあ、お酒をいかが」とすすめる。 それを受けて、ヒゲ男性は少し迷った挙句、「じゃ、せっかくの好意だから頂くとするか」と欲求に負けてしまう。 ここでその女性の一言が最高! 「あら、バスの中でお酒は禁止じゃなかったのかしら」。 そして、最後までお酒をそのヒゲ男性にあげない。 こりゃ凄い!酷い! 普通、そこまで皮肉言ったら、一杯くらいあげるだろ! やるなぁ〜 【にじばぶ】さん [ビデオ(邦画)] 7点(2008-01-20 20:35:28) (笑:1票) |
3.《ネタバレ》 「有りがたうさん」良い響きだ!観終わって一言、心から「有りがとう」てこの映画の人達みたいに大きな声で叫びたくなった。そのぐらい本当に観ていて気持ちの良い映画だ!話そのものは、物凄いアクションがあったり、何か特別に凄いことが起きるわけではないのに、それが返って物凄く新鮮で本当に観ていて心地が良い。伊豆から東京へと向うバスの運転手とそこにそれぞれ色んな悩みを抱えている人達が乗り込んできて、その道中、様々な人間模様が繰り広げられるのたが、それがまた面白い。全員がこれまた善人かと言うと、そうでないところもこの映画の面白さの一つである。バスの動きにまるで合わせるかのようなのんびりとした台詞、これがまた何とも観ていて不思議なぐらいの心地の良さを感じる。車の中での桑野道子と髭をはやかした老人との会話、やりとりがこれまた凄く面白い。甘いのは苦手だからとウイスキーを勧めておきながら、やっぱり車の中でのアルコールは駄目だとか、髭をいじくっているとそれを見て、あんまり伸ばすと取れてしまうだのと皮肉いっぱいのこの面白さ、上原謙のバスの運転手と他のお客さん達、そして、地元の人達との「有りがとう」「有りがとう」の連呼!これもちっとも嫌味というものを感じない。それどころかむしろ、本当に「有りがとう」ていう気持ちに見ていてなるぐらいの心地の良さ、全編オールロケてのもこれも素晴らしい。のどかな大自然を生かした素晴らしい風景の中に輝く人間の優しさと人生に対する厳しさみたいなものが1時間半にも満たない僅かな時間の間で、しっかりと描かれているのも素晴らしく、何だかまるで小津監督の映画を見終わった後のような本当に心地の良いそんな映画を見た気がして、この監督さん、一気に好きになってしまった。この清水宏という監督の他の作品も見たいなあ! 【青観】さん [DVD(邦画)] 9点(2007-12-24 11:02:19) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 舗装もされていない道を運転し、人とすれ違う旅に「ありがとう」と声を掛けるため、「有りがたうさん」と呼ばれている。安全運転がモットーで二枚目の伊豆の名物運転手。その運転手役には若かれし上原謙。彼が実際にバスを運転して撮ったオールロケの作品です。 音楽も作品の雰囲気を充分汲んでいて、独特のほのぼの感を上手く出してますね。 「台詞の棒読み」がはじめビデオで観た時は気になったが、スクリーンで観た時はバスのスピードを含めて全て計算なんだろうなと感じる。そして、これがむしろ心地よくなる。翌年の「花形選手」の行軍なんかもそうですね。 製作時の伊豆の山と海岸線の風景、バスの後ろに乗っかるために笑顔で追いかける学生など、窓から見える風景に文句のつけ様がないし、一方、車中でも水商売の女・桑野通子がゆったりとした口調でたまに毒を吐いたりするのが面白い。東京へ行く娘の母がみなに羊羹を差し入れるが、桑野には勧めない。桑野は「甘いのは駄目」とウイスキーを取り出して、男達に勧めるシーンなんかは特に好きですね。 ほのぼのとしたロードムービーとしても充分に面白いのですが、その中で、街道・トンネル工事に転々とし、父を失った朝鮮人(日本併合)の娘の言葉であったり、車内は東京へ売られていく娘を軸に展開したり、当時の社会模様をしっかりと反映させている。大きくないバスが伊豆の山中をひたすら進むというシンプルな話なんですが、観るものを魅了させます。傑作! 【サーファローザ】さん [映画館(邦画)] 9点(2007-08-02 12:08:08) (良:1票) |
1.清水宏監督作品も、夭折した桑野通子という女優さんを観るのも今回が初めてです。なんとまあ、ノンビリしたロード・ムーヴィーなんでしょう。もしかしてこの映画が日本のロードムーヴィーの先駆けなのかな?観ているうち頬がだんだんほころんでいくような愉しい映画ですね。もちろん戦前の作品なので、映像の技術的な部分については今の観客の目から見るとかなり不満が残るけど、まずこれオールロケーションというのがすごいです。どこかで観た山の稜線や海岸の景色だなあって思ってみていたら、地元静岡の南伊豆の風景でした。こういう風景の中で語られる人間賛歌には文句のつけようがありません。↓ユーカラさんが述べられているさりげない当時の社会批判にも、一本筋が通ってますよね。 (→松竹100周年記念祭にて) 【放浪紳士チャーリー】さん [映画館(字幕)] 8点(2005-11-23 11:39:28) |