35.《ネタバレ》 予備知識ゼロで見ました。1987年、チャウシェスク政権下という設定。学生寮らしきところに住む20代前半?の女子学生二人(ルームメイト同士)が、なにやら泊まりがけで出掛ける支度をしているところから始まります。部屋の中は、ぬいぐるみやらのkawaii系グッズなどは皆無で、無機質で男前です。さて、泊まり先としてホテルを予約していたのですが、実際に行ってみると、予約係のミスで予約が入っておらず、フロントには冷たくあしらわれます。逆に、前日に予約確認をしていなかったことを責められる始末。計画経済における供給者側の傲慢さに加えて、利権すら見え隠れします。余分に請求されたお金はフロントの懐に入ってしまうのでしょう。そして、映画が始まり30分ほどしたところで、ようやく、闇医者に闇中絶をしてもらうために、ホテルを予約したことがわかってきます。そう言えばネットか何かでみた作品概要に、妊娠中絶の話って書いてあったなと思い出しました。勘の悪い私は、ここでようやく、タイトルと内容を結びつけることができました。さて、ルーマニアでは、妊娠中絶は違法行為なので、闇市場化しています。健全な市場であっても医者と患者が対等な関係となるのは難しいと思いますが、いわんや闇市場をや、です。ホテル代を支払ってからの価格交渉では、後に引くにもコストがかかり、供給者側の圧倒的有利な立場により、言い値が通ってしまいました。仮に金を多く持っていたとしても、やられていたことでしょう。人間のエゴをコントロールして、推進力として活用しようとする市場経済システム。人間にエゴはないものとし、資源は計画的、効率的に配分されるものとする計画経済システム。コントロールされないエゴの醜悪さを、まざまざと見せつけられた気がします。妊娠をするに至った経緯や相手の男について一切触れないことにより、想像の余地が非常に大きくなっています。見た人によって感じ方が著しく異なるであろうところが面白いですね。他の人の感想を知りたくなる作品です。私の感想は、社会システムが悪いのは、重々承知の上で、まあ自業自得かなと。主人公は、巻き込まれた被害者でもあり、気の毒ではありますが、妊娠した本人は、胎児を殺すわ、親友を巻き込むわ、まったく自覚がないので、腹が空いたら飯を喰らうが如く繰り返しそうです。胎児の父親については、特定できない可能性もあり何とも言えませんね。仮に特定できるとすれば当然男も悪いですが、この妊娠女に至っては、100人に1人の悪い男を100発100中で選ぶような勢いすら感じられ、同情の余地がありません。憎めない感じではありますが。ドジっ娘属性ありますが。結構好きですがなにか。P.S.映画中で説明はないのですが、ネットなどで調べるに、当時、チャウシェスク大統領夫人の考案で、労働人口を増やすために、避妊と堕胎を禁じる政策を布いていました。うん、わかりやすいよ、うん。結果として、ストリートチルドレンがあふれました。 【camuson】さん [DVD(字幕)] 7点(2024-10-10 18:05:16) |
34.《ネタバレ》 導入部分こそ、何の話やら見えず眠気に襲われたが、これが何やら堕胎に関わる深刻な話だと分かり、一気に物語に入り込んでいった。 ルーマニアの寒々とした風景に目を奪われた。 なんという寂しくて無機質な風景なんだろう。 訪れたこともない異国の雰囲気を味合う、まさに映画ならではの醍醐味だ。 闇医者の横暴な態度、相手の足元を見てやたらに偉そうにする。 どこにでも居そうな、いわゆる悪どい人間だ。 果てには、遠回しに女の体を要求するという陰湿なスケベさ。 (敢えて付け加えるならば、闇医者として人工妊娠中絶を生業としながら、同時進行で女性の弱みに漬け込み種付けをするという、極悪非道なマッチポンプ野郎!) 直接的に刺激的な描写は極力避けられており、そこには好感を持てた。 刺激的なシーンを全面に押し出すような悪趣味なものではなく、妊娠という動かしようのない事実に直面した際、最終的に辛い思いをするのは女性たちなんだと、静かに訴えかけてくる。 無責任に快楽優先で性行為をすること、それに伴い発生する困難な事態。 そして、その困難な事態に世間は無力であり、男性の理解も及ばない。 窮地に追い込まれた女性たちの行動や心理を、静かな中に確かに描いて見せた逸品。 【にじばぶ】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2021-08-09 17:26:38) |
33.《ネタバレ》 一見何事もない日常に見える。しかし1987年当時のルーマニアは共産圏で密告も裏切りも絶えない時代。その閉塞感と緊張感が固定カメラの長回しで占める映画全体の空気を引き締める。中絶が禁止されているのなら尚更だ。中絶を望む友人の空気の読めなさ、臨機応変のなさ、曖昧な応対にイライラさせられ、ついに彼女のためにヤブ医者に身体を売る羽目に・・・それでも友人を見捨てなかったのは、自分も同じ立場になったら、友人に頼らざるを得ないということ、そして避妊具がこの国では流通していないことも大きいのだろう。望まぬ妊娠で生まれた子供はやがてストリートチルドレンとして過ごし、凶悪犯罪に手を染めていく。欧州最貧国の一つであるルーマニアに残された負の遺産と傷痕を伝えたのがこの映画だ。無事に一日を終えた二人の表情には安堵と険しさが同居している。数年後、チャウシェスク政権が崩壊することを映画を観ている人は知っている。だが、二人はそれを知らず監視社会に怯え続けなければならないのだ。 |
|
★31.《ネタバレ》 極めて淡々と進むチャウシェスク体制下の話。中絶が禁止されていた国での堕胎を描いた作品。堕胎の倫理的正当性や感情論はさておき、当時の時代背景や一見計画的に見える迷走政策について伝えたかったのかもしれない。 【lalala】さん [DVD(字幕)] 5点(2014-09-28 19:13:22) |
30.《ネタバレ》 1987年、独裁政権下のルーマニアでは、労働力確保を目的に一切の堕胎手術が法律により禁止されていた。そんな中、望まれない妊娠をした女学生ガピツァ。彼女はその日、仕方なく街のとある産科医に依頼し、非合法の堕胎手術を受けることを決意する。ルームメイトであるオティリアはそんな心身ともに追い詰められていたガピツァのために、「一日だけなら」と手を貸すことに。だが、依存心の強いガピツァの様々な不始末によりオティリアはことごとく振り回される羽目になる。彼氏との約束も反故にされ、ホテルの予約も取り直し、そして足りなかった堕胎費用のためにオティリアは自らの身体まで……。東西冷戦末期、長年の独裁体制の果てにあらゆる面で行き詰っていたルーマニアを舞台に、男たちの身勝手な性欲によって翻弄される若い女性たちのとある一日を冷徹に追ったカンヌ映画祭パルムドール受賞作。うーん、確かにこの監督の言いたいことや描きたいテーマは充分に分かるのだけど、この見れば見るほど気が滅入るような辛気臭いお話をひたすら見せ付けられて、正直僕は途中からもうゲンナリしちゃいました。自分の身体のことなのに終始他人事のようなガピツァもそんな彼女に何故か怒りもせずにひたすら尽くすオティリアも横柄で自己中心的な産科医も、もう出てくる登場人物どいつもこいつもこれっぽっちも魅力がなくてイライラするし、映像だって必ずしも綺麗じゃなく終始薄暗くて見辛かったし、挙句の果てに排泄された血まみれの胎児を画面いっぱいに映し出した日にゃ「もう、ええ加減にせい!」って感じでした。いやー、いかにもカンヌが好きそうな作品でしたね、これ。だからと言って、そんな胸糞悪い思いを観客に抱かせながらもやっぱり観て良かったと思えるほどの芸術的価値がこの作品にあったかと言えば、あくまで個人的意見だけど僕は「否」と言わざるをえなかったです。だって、このラストだと結局は男たちの身勝手さに泣き寝入りしただけのような気がしてならなかったんだもん。愚かな男たちの身勝手さに決然と立ち向かう女性の力強さ、みたいなものを僕は観たかった。5点! 【かたゆき】さん [DVD(字幕)] 5点(2014-09-26 20:17:34) |
29.チャウシェスク政権末期のルーマニア、病んだ国家で青春を生きる女の子のある一日。ぱっと見、国情は全く豊かでなく、補修を一切してなさそうなビル、滞りがちな物資、停電の頻繁に起こる街。薄暗くて汚い小路。官僚的でサービス精神ゼロのホテル受付の態度に共産圏の香りをびしびし感じる。国がきちんと運営されていなくとも人はそれなりに結託して生き抜くもので、学生寮にまで闇市まがいの流通はあるしバスの切符すら見知らぬ人に融通する助け合いの精神があるのに驚いた。主人公オティリアもまた、その「助けなきゃ精神」によって友人に翻弄される。だけど彼女の助け合いポリシーが揺ぎ無いんだ。胎児を処理(!)までして危険な街路を帰ってきたオティリアをけろりと食事して待つ友人。そんな相手を特になじるでなく疲れを漂わせながらも大変な一日を淡々と終えるオティリアの横顔。理不尽で厄介なことに慣れた、独裁国家の国民そのものを象徴するよう。だけどこの人たちは打ちひしがれたままでない、その後の経緯を知ってるからこそ、とても興味深く観賞できた。 【tottoko】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2013-11-01 01:46:18) |
28.《ネタバレ》 え、点数高すぎてびびった(笑)てっきり6点台前半かと。男性に高評価が多いんですかね? 私はただただ、中絶する本人のやる気のなさにイラつき、主人公が受ける仕打ちに哀れになり、それだけ。問題提起を意図した作品らしいが、それよりもイライラが勝り…。ただ、撮り方はよかったと思う。ヒリヒリした感じが伝わってきたので。 当事者であるガビツァは、医者との約束は守らないわ医者に嘘をつくわホテルの予約はミスするわ必要な物を忘れてくるわ…と枚挙に暇がないぐらいのダメっぷり。ほんとにやる気があるのか?と言いたくなる。 反対に主人公は、ガビツァの処置のために医者に抱かれる、ガビツァのために堕胎後の胎児を鞄に入れて持ち運び捨てる、恋人の家では親をバカにされ不愉快な会話を延々聞かされる…と、哀れになるほど酷い仕打ちばかり。 これは共依存を描いたんですかね?(笑)こんなにダメなガビツァを見捨てず、ひたすら面倒を見る主人公の心情がよくわからない。詳しくないですが、ダメな相手を見捨てられないのが心理学的には「共依存」という問題らしいので(笑) 個人的には4点ぐらいにしたいが、客観的に見ると撮り方の上手さなどもあるのでこの点数。 1週間ほど前、ある映画のレビューで「中絶シーンをここまではっきり描いた作品を見たことがない」と書いたが、それがあっさり覆された(笑) 現在一般的な処置とは違うが、器具の挿入や堕胎後の胎児までハッキリと描かれている。男性諸君に対しては、「中絶ってこんなに大変なんだよ」という啓蒙作品?になるのかもしれないが(実際、無責任な発言をする主人公の恋人も居るし)女性からしたらそんなことは知っているし、この映画の解説で見た“独裁政権末期の社会の生きづらさ”みたいなものが、他のそういうテーマの作品より特別良く描けていたかというとそうでもない。 主人公にはなぜそこまで尽くすのか、と疑問を感じ、ガビツァにはなぜそんなに無責任なんだ、とイライラさせられ感情移入できない…女性でこの作品にハマれる人は少ないかも?(そういう方が居たらごめんなさい、人それぞれだと思います(笑)) |
27.思い出したくもないような日、それは誰にでもある。やたらに汗をかき心をぶるぶると震わせて、ものを食べる気にもならずに気がつくと足が棒になっているような、大変な一日。長回しで作りだした主人公オティリアの悔しくて怒りに満ちた空間を、疲弊した人々や町と一緒に切り取ってみせた映画。暗いけれど、そこを生き抜く人たちの強さも感じる。しかし、彼女の映画のなかの時間は全て友人や恋人のためにあった。なんでそうまでするのかと首をかしげたくなるほど。ロシアがソ連だった頃にそこで暮らしていた人が「何もないから、みんながピュアだった。」と言っていたのを思い出す。 【のはら】さん [DVD(字幕)] 7点(2013-01-12 20:38:40) |
26.自分としては、ルーマニア作品、初鑑賞。よって貴重。 【3737】さん [CS・衛星(字幕)] 5点(2011-09-08 23:59:02) |
|
25.全く無駄のない作りで緊迫感漂う素晴らしい映画です。生まれてくる子供を始末するのは大変な事であり決して遊びでは済まされない重大事であると改めて考えさせられました。 【白い男】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2011-05-18 22:08:18) |
24.人と人が繋がるということへの絶望感が全面に出た作品。主人公とルームメイトから、医者とその母親まで、人間と人間の間にある絶望に終始苛立たせられる。レストランでのラストシーン、うつむき続けるルームメイトと彼女を見つめ続ける主人公。その視線が映画を見る者に向けられたとき、あまりに直接的に我々は自分を批判的に意識させられ、そのまま唐突なエンドロールに投げ込まれてしまう。鑑賞タイミングを間違うと酷い事になりそうな一作。 【楊秀清】さん [DVD(字幕)] 8点(2011-03-06 19:22:30) |
23.《ネタバレ》 1987年という年号から始まるのは、チャウシェスク政権の崩壊直前という意味以外の何物でもない。自分の知識は、女子体操のコマネチさんがチャウシェスクの息子に囲われていたと云うゴシップレベルで無知に近い状態。この映画を見た後に少し調べましたが、↓【シュウ】さんのレビューに完全に補完していただき助かりました。この映画は友情とか同情とか、そういう心模様を綴った作品では無いのでしょう。背景の街並みの廃れ方や台詞の断片に、当時のルーマニアの社会情勢が細かく散りばめられています。知識を得た後になって言えることですが、とても良く練られた脚本です。今更、無くなった政権の批判をしても仕方のないことだけど、労働力を増やしたいがための中絶&避妊禁止って政策に絶句です。理不尽は当然としても、論理のレベルが低過ぎる。だけどそれが「独裁」って意味であり、「独裁者」は人を野良犬並みに扱っていたことが良く分かる。そんな状況の中では、誰もが自分本位に物事を考えるのでしょう。その代表例があのヤミ医者。「責任を取れないことはするな」などと偉そうなことを言いながら、女性が妊娠に至る行為を金銭の代償に求める矛盾。何本もネジが緩んだルームメイトの馬鹿さ加減も、主人公の苛立ちを際立たせるための演出ではなく、社会制度がもたらした自分本位の退行現象とも捉えられると思います。主人公の聖人のような面倒見の良さは、思いやりと云うより、体制に抗う製作者の意思と解釈しました。一種の記録映像という位置づけが出来る内容ですが、映画というメディアの持つ力を再認識させてくれる作品でした。 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2009-12-09 04:50:06) |
22.ルームメイトにあそこまでつくす奴はそうそういないわな。暗い夜道が当時のルーマニアを暗示していました。 【すたーちゃいるど】さん [DVD(字幕)] 7点(2009-07-30 00:04:47) |
21.《ネタバレ》 パルムドール受賞作ということで観ましたが、パルムドールらしい作品だったと思います。少ない登場人物に重いテーマ、そして手持ちカメラの使用や、BGMや効果音を一切使わない手法、ラストシーンに含みを持たせている等々、ヨーロッパ特にフランス映画の影響を強く受けているように感じました。最近のパルムドールでは「ある子供」と非常に似た手法です。 ストーリーはチャウシェスク政権をよく知らないと理解しづらいようですが、こういう時ほど世界史を勉強しておいて良かったと思うときはないです(笑) 違法である堕胎を行うルームメイトを助けるために奔走する主人公。そこで堕胎という女性に特有の行為に直面し、金の問題や闇医者によるレイプなど厳しい現実にも遭います。そこから生まれる男性への不信、将来の不安が一気に溢れだし、彼氏と衝突します。その家族とも衝突します。その家族と友人達が古い価値観しか持っていないからです。 そこを表す食卓での長い会話のシーンは恐らく1カットであり、あそこまでの長回しをするということはそれなりに意味があるのでしょう。その会話に嫌気がさしている主人公の顔が印象的でした。 ラストシーンもかなりシンボリックで、唐突に終わります。ガラスに反射する車のライト。主人公はその車に目を向けます。あの車は希望を、それとも更なる苦難を彼女たちにもたらすのか。恐らく現実は甘くはないでしょう。 暗い顔でテーブルに座っている二人の向こう側には、すりガラスを挟んで裕福な人々がパーティをやっています。その全くの別世界は当時のルーマニア人達が切望していたものなのでしょう。 それから闇医者ベベのカバンから取ったナイフや、彼が忘れていったIDカード、彼氏から借りた300レイなど、回収されていない伏線が少し気になります。 自分がパルムドールに相性がいいのもあるかもしれないけど、傑作です。 【Balrog】さん [DVD(字幕)] 8点(2009-06-13 15:39:52) |
20.《ネタバレ》 時代背景がわからず、鑑賞後に当時のルーマニアの情勢を調べて初めて納得する部分が多かった。 チャウシェスク独裁政権下では労働力増強のために中絶どころか避妊まで禁止されていたそうで、恋人との口論の下りで違和感を持ったのだけれども、あれはつまり排卵日を計る以外、ろくに避妊方法がなかったのですね(ちなみにこの政策は元首夫人のエレナによるもの。皮肉なことに、女性による政策なのです。夫以上の暴君だったよう)。また避妊具の禁止と注射器不足から西欧国中最悪のHIV蔓延を招いた史実もあり、そうすると手術間際の「注射するの?」という不安げな台詞にも含みがあったのだろう。 夜の市街地がやホテルが暗いのも、電力すら満足でない国の経済状況を表す描写。生活物資にも事欠き、街には野犬が往行する。女性の出産を奨励する一方で国民の生活は極端に貧しく、一万人近くのストリート・チルドレン(通称「チャウシェスクの子ども達」)を生み出す結果となる。そして彼らを待ち受けていたのは貧困、児童買春、薬物中毒とHIVといった、あまりにも悲惨な運命。ヨーロッパ中から子どもの性を買うための観光客が集まっていたこの国が、本格的な孤児救済に取り組むのは21世紀になってから。 主人公が「工学部」に所属することが何度か言及されているが、これは「化学」に並んで政府が最も奨励した産業。初めて会ったときにベベがオティリアの身分を知り「都会で働けるな」と呟いたのはつまり、将来安泰のエリートであるということ。片やベベは老いた母を抱え、危険な違法行為に手を染めなければ生活できない身。もちろんベベのオティリアへの仕打ちは決して許されるものではないが、そこには嫉妬からくる歪んだ憎悪があっただろう。母子の場面を挟んだのは、彼が単純な悪人ではなく、ある意味では時代の犠牲者であると示したかったのだろう。 少し注意してみれば、さり気ない描写に史実が織り込まれているのがわかる。これは女性映画であると同時に、たった一日の情景に時代を浮かび上がらせる、優れた歴史映画でもあるのだ。 【no one】さん [DVD(字幕)] 8点(2009-05-22 07:12:00) (良:3票) |
19.共産主義社会ではかように力なき者同士は助け合うようになるのだろうか?何故バスのチケットが無い人間に当然のように自分の切符を分け与えるのか、何故たかがルームメイトの窮地に犯罪に荷担してまで尽くすのか・・・そこに違和感を感じる自分が、個人の失敗は基本的に全て自己責任として扱われ、他人の不幸は自分とは無関係と考える、この素晴らしき自由な個人主義社会で何かを失っていることに気がつかされた。 【lady wolf】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2009-05-04 16:40:22) (良:2票) |
18.《ネタバレ》 ルーマニア映画。ルーマニア語の映画を観るのははじめて(多分)。共産主義時代の1987年を舞台としており、そこここに共産主義国独特の空気が漂っている。この映画は小説でいえば斉藤美奈子いうところのいわゆる「妊娠小説」で、妊娠したルームメイトを助けようとする女性を描いている。ただしこれまでは「妊娠した女性vs妊娠させた男」の構図で描かれたものが多かったと思うけれども、この映画では妊娠させた男は出てこず、出てくる男性は手術を行う男と、助けようとするオティリアの恋人である。この映画のすごいところは言わない科白がガンガン心に伝わってくるということ。話していることよりも話していないことが大切だった。手術の途中、オティリアは恋人の母親の誕生日パーティに行かなくてはならない。そこで恋人と口論になる。私たちは彼女が今どんな状態に置かれているかを理解しており、恋人は全く何も知らない。自動的に私たちは決定的に彼女の側に立たされる。恋人とオティリアの会話のなかにかすかに真実が垣間見える。緊張のシーンが多い中、この会話のシーンが一番心に残った。数日が経過してもまだオティリアの顔がちらつく。映画として文句なしの傑作と言っていいと思う。 【はちかつぎひめ】さん [CS・衛星(字幕)] 9点(2009-03-26 12:03:22) |
17.つきあいで見ました。導入部が分かりにくくて「・・・?」と思っているうちにだんだんと進行しつつある事態と社会状況が見えてきます。きょうも世界のあちこちで繰り返されている事態をあくまでも奇跡抜きで追っていき、見る者をハラハラドキドキで消耗させていきます。どうしようもないルームメイトを演じた役者さんは迫真の演技でダメダメさ加減を出していました。結末はどうであれ、ともかくも映画が終わってほっとするやら力が抜けるやらで疲れました。 【きのう来た人】さん [DVD(字幕)] 8点(2009-02-14 05:39:55) |
16.《ネタバレ》 ちゃんとした脚本で役者がいいと、こうもいい映画が撮れるのですね。 後味がいいとは思わないけれど、ドキュメンタリを見ているようで、主人公の気持ちに入り込んでいけた。この種の理不尽さは、いつの時代のどこの国でも共通ということでしょうか。 突然のエンディングも、なんかいい。 【のまっと】さん [DVD(字幕)] 8点(2009-02-13 23:11:52) |