10.《ネタバレ》 ジャックとしてのピュアでシャイな少年像を見せたうえで、同一人物のはずのエリックがなぜ過去に残虐な殺人に加担したのか、そのへんを観客に納得させることにはとても気を使っていると思う。
エリックという家庭環境の不幸な子供がいました。勉強もできず、いじめっ子に殴られる日々。ある日、エリックよりもっともっと不幸なフィリップがいじめっ子からエリックを守ってくれました。エリックにとって信じられるのは、フィリップただ1人となって、フィリップにどこまでもついていこうと思いました。
疎外された少年たちが固い絆に結ばれて、絆を守ることがすべてに優先されて、エリックの年齢では善悪の判断がつかなかった。…そういうふうに説明していると思う。
が、カッターを握りしめて少女を追うエリックと、出所後のジャックには、同一人物とは考えられないほどのギャップがありますから「(追い詰められて自殺してしまうような)ピュアなジャック像」というのが先にあって、上の説明は後から考えたものなんじゃないかと。
テリーが情報管理にもっと注意したうえ息子に優しくしていたら、息子が金に目が眩んで密告しなかったら、白鯨ちゃんが新聞に写真を売らなかったら、クリスが電話でジャックを見捨てるようなことを言わなかったら、この中の一つでもなければ、ジャックは生きていた…と思われます。皆が少しずつジャックの自殺に加担しているわけですから誰ひとりこの件について「無罪」ではないということになります。
周囲のみんなが、少しずつジャックを死に追いやったのだ。
この人たちは罪を問われることはないが、ジャックはいつまでも憎まれたではないか…ってそら、やったことがやったことですから。そういう比べ方(をしているように見えるが)もヘンじゃないでしょうか。
エリック=ジャックという少年は邪悪ではなかったのだ、というふうに描かれていますけど、じゃあフィリップはどうなのかというと兄に虐待されなければ邪悪ではなかったので、ジャックを自殺に追い込んだ人たちも特に邪悪なわけではないのに結果的にそういうことをしてしまっていて、つまり全体を流れる思想は、誰ももともと邪悪じゃないけど誰もが少しずつ過ちを犯しているのだということで。
罪を犯していない者だけが石を投げよ、というふうに見えます。それだと本当に罪を裁けるのは神様だけということになります。またこんな感じ…。