2.《ネタバレ》 まずウーヴェ・ボルがゲーム会社に映画化を持ち掛けたものの、「お前にだけは絶対に撮らせない」と門前払いを受けたというちょっと良い話もあるこの企画。代わって高い評価を受けているダンカン・ジョーンズが脚本と監督を引き受けたことで、本作はかなりレベルの高い作品となっています。中世風の世界におけるファンタジー作品は『ロード・オブ・ザ・リング』関連を除けばほぼ失敗作ばかりであり、ハリウッドにとっては鬼門ともいえるジャンルなのですが、ジョーンズは原作ゲームのデザイナーを多数起用するとともに、ポストプロダクションに20か月もかけてビジュアルを練り上げ、なかなか見ごたえのある世界観を構築しているのです。
話の内容もかなりの熱量を持っています。テンションの高い合戦シーンに、多くの登場人物が誰かしら身内を失うという情念の入り混じったドラマ。また、きっかけは善意とは言え、禁忌とされる力に手を出して世界を危機に陥れたことを後悔しながら死ぬメディヴと、一度は責任から逃げ出したものの、師匠の臨終の場で守護者としての自覚に目覚めたカドガーのドラマには胸を打たれるものがありました。これまでセンス良い系として通ってきたジョーンズが、これほどストレートな娯楽作を作ったことは意外でした。
ただし問題点もあります。主人公の一人であるデュロタンはいち早く闇の陰謀に気づき、不毛な戦争をさせられそうになっているオークと人類を和解させようと奔走し、最後には非業の死を遂げるものの、彼の死が大勢にまるで影響を与えていないのです。彼が命をかけて挑んだ決闘ではオーク達の心を動かしたかのように見えたものの、結局は何も変わらないまま戦争が始まってしまう。同様に、人間側の王の自己犠牲もまるで報われておらず、一部のドラマがうまく流れていません。これらは続編へ向けた伏線なのかもしれませんが、単独作品としての満足度を下げる方向に作用しているのでは元も子もありません。またポリティカルコレクトネスへの配慮からか、ヨーロッパ風の甲冑を来た軍勢の中に黒人や東洋人が混じっていたことは、せっかくの世界観をぶち壊しにしています。有色人種の姿が見えないと脊髄反射的に難癖をつけてくる一部のクレーマーのせいで、映画の完成度が損なわれていることは残念でした。
以上の問題点が祟ってか批評家からは否定的なレビューが目立ち、興行成績は損益分岐点ギリギリという期待外れの結果に終わりましたが、これだけ素晴らしい世界観や高い技術、張り巡らされた伏線を捨てるには惜しい企画です。ダンカン・ジョーンズも続投を切望していることだし、お願いだから続編を作ってね、トーマス・タル。