56.《ネタバレ》 いやあ、困った映画だ……。
というのが、鑑賞直後の率直な感想。“何”を重要視するかで、褒めちぎることも出来るし、どこまでも蔑むことも出来る。そういう映画だった。
タイトルが示す通り、「愛」そのもののあまりに無防備な“むきだし”の様を延々4時間見せ続ける。
それだけで、一言「凄い」と言えばその通りで、他のあらゆる映画とも似通わない“天上天下唯我独尊”的映画だと言っていい。そのオリジナリティと絶大なエネルギーは、もちろん賞賛に値すると思う。
しかし、観賞後しばらく時間が経過して、個人的には拭いされない「違和感」が先行していることに気付いた。
人間の本質的な雑多さと下世話な様に満ち溢れた映画であることは間違いない。
過剰な“エログロ”描写が、鑑賞者の好き嫌いを大別することも明らかだろう。
ただ自分が感じた「違和感」は、そういう部分のことではなかった。
端的に言えば、「宗教観」だと思う。
難しく微妙な宗教描写にも、この映画は堂々と土足で踏み込んでいく。僕は無信仰なので、それらの描写もこの映画のエネルギッシュな娯楽要素として受け入れることはできた。
しかし、よくよく考えれば、この映画の宗教描写はあまりに乱暴過ぎるのではないかと思った。
主人公は、明らかに怪しい新興宗教に陥っていくヒロインに対して、「あの新興宗教でなければ、他のどの宗教を信じてもいい」というようなことを言う。
無信仰な者の台詞であれば、べつに違和感はない。しかし、主人公が生まれた時から敬虔なクリスチャンの家庭で育った人間であることを踏まえると、ちょっとあり得ない台詞なんじゃないかと思う。
そして、この映画では、信仰の深い人間が徹底的に危うく脆い者として描かれる。
「宗教」がテーマの核心に存在しているが、この映画はどこかで、信仰を軽蔑しているように見えて仕方がなかった。
そういう“立ち位置”を今作に感じてしまうと、みっちりとエグい描写が羅列する程に、致命的な軽薄さが垣間見えてしまった。
ただし、このあまりに特異な映画世界に息づく演技者たちはすべて素晴らしい。
特に物語的な主人公と言っていい“3人”が凄い。
西島隆弘、満島ひかり、そして安藤サクラ、この若い3人の俳優が凄まじい存在感を全編に渡り放ち続けていた。
さて、結局面白かったのか、面白くなかったのかどっちなのだろう。
ああ、困った……。