248.《ネタバレ》 ビリー・ワイルダー監督の代表作。
非常に完成度の高い作品で、隙がない。
特に、脚本が秀逸で、伏線がうまく張られている。
説明はなくても、心の動きがはっきりと伝わる描き方がうまい。
例えば、バドが昇進で与えられた会社の個室にフランを招きいれたシーン。
部長の正体を元愛人から教えられた直後で、フランはショックを受けている。
そんなことも知らないバドは、フランに部長からもらったクリスマスカードを見せる。
部長と親しいことを誇示したいバドの意図が見えるが、フランには部長が家族と楽しげに写っているのがつらいだけ。
昇進で浮かれるバドは、役職にふさわしくするために買った帽子が似合うかどうか尋ねる。
その時、フランが貸してあげた割れた手鏡は、部長の情事の後にバドの部屋にあった忘れ物。
これで、バドは部長の情事の相手がフランだと気づき、浮かれ気分から一気にどん底に――。
この何気ない短いやりとりの間に、二人の隠された感情の動きやすれ違いをはっきりと表現している。
わからない人はわからなくていいという芸術家ぶった姿勢ではなく、さりげなくきちんと伝えるプロの業がいい。
鍵、帽子、手鏡、シャンパンなど小道具の使い方が絶妙だし、セリフはウィットに富んでいる。
登場人物のキャラクターもいい。
なんといっても、シャーリー・マクレーンがとびきりチャーミング。
余談だが、後に『アウト・オン・ア・リム』でベストセラー作家になったのは驚いた。
容貌がすっかり普通のおばさんになっていたのが寂しかったけど…。
主人公のジャック・レモンもいい味を出している。
身も蓋もなく言ってしまえば、冴えない男とバカな女のお話なのだが、だんだん引き込まれていく。
そして、女を思う男の純粋さに、カッコよく見えてきてしまう。
笑えて、切なくて、心温まる、お手本のような映画。
モノクロ映画でラブストーリーの古典としては、『ローマの休日』と肩を並べるかも。