2.《ネタバレ》 これはすごいです。
誰もが一度見ていただきたい、何かとてつもないすごいものがあるのです。
決してNHKのご長寿番組と似たようなものを想像してはいけません。
誤解を恐れずに言いますと、一見、「ドリフのコント」にぴったりの素材が満載なわけです。
シリアスな病気の話題が日常会話の間にフツーに語られ、メンバーは次々に倒れ入院、相次ぐ病死、しかもポスターのド真ん中に写っているジョーがコンサートの前に亡くなるというついつい笑ってしまう状況。「ショーの間に私が倒れたら、幕袖に引っ張って隠してそのまま続けて。1人減っただけよ。」という女性、酸素ボンベ持参で登場するフレッド。
もうもう、コントネタがあふれるその世界。これがドリフでなくてなんなのでしょう…。
が、ここには笑えるネタと、「老い」「死」という人間の真実が混在しているのです。それが非常にシュールであって、なんともいえない味をかもしだす。ゆえにこの作品からは誰も逃げられない。彼らは、「死」ととても近いところで生きている。死んでしまってショーに出られなかったメンバーも、生きて出演して歌ったメンバーも、実はそんなに距離が遠くない。彼らにとって「死者」は遠くにいる存在じゃない。かなりの確率で、それは自分だったかもしれないのだから。とてもシュールです。ドキュメンタリーであるという「強み」が最も効果的に発揮される作品です。
観客が彼らを喜ぶのは「超高齢なのに」ノリのいい曲を迫力で歌うからです。「超高齢なのに」が欠ければ、たいした話題にもならず、おそらくプロを諦めてこの道を選んだであろうプロデューサーのボブはそのことがよくわかっています。
そして「超高齢」に「エンタテインメント精神」や「プロ魂」が加わったとき、彼らはすべての人を説得してしまう。刑務所の囚人も、ノルウェー国王も。
なぜなら彼らは儚いからです。儚いものは貴重で美しいのです。儚いものには誰も逆らえない魅力があるのです。
あなたも私と同じように、ぜひフレッドの「FIX YOU」で泣いてください。それは人間としてとても正しいことですから。
すばらしいです。技巧にも優れユーモアもあり心もこもっているという稀なドキュメンタリーです。