1.《ネタバレ》 「深夜の銃声」または「偽りの結婚」の題でも知られるフィルム・ノワールロマンス。
カーティスの最高傑作は「カサブランカ」なんて退屈なメロドラマじゃない。
高密度でフルスピードの本作こそ、そしてジョーン・クロフォードにとっても最高の1本!
これが本当にあの臭い映画を監督した人間が撮った映画なのだろうか。信じられないくらい面白いのである。何故こんな傑作が日本ではVHSどころかDVDもまともな形でリリースされていないのだ!これほど頭にくる事はないぞ!
まず波と共に現れ波にさらわれていくオープニングクレジットからして面白い。
この映画は鏡の映画だ。
年頃の娘が見つめる鏡、下から女の表情を鏡のように映すもの、弾痕が刻まれる鏡、遊んだ後に結ばれた髪をほどく女を映す鏡。
摩天楼、銃撃からはじまるファースト・シーンの衝撃!女の名前を一言もらす最期、鏡に刻まれた弾痕。
走り去る車、波止場、橋の上を歩く女の悲しき表情、ミンクのコートは遠出を予定している証。
手すりを叩く音、窓を叩いて女を呼び止める男。
机の下に放置される男、乾杯、男のコップを叩き落として口づけをことわる、、螺旋階段、ドアを閉めて男を密室に閉じ込め“擦り付ける”、倒れた電燈によって発見される遺体、自ら電話線すら絶ってしまう。
実に鮮やかな、見事なスタートダッシュから始まった12分間。
そこから警察署でめぐりあう知り合い、取り調べ、焦り 新たな男の登場と動揺。
20分を境に始まるミルドレッドの回想。
初っ端から険悪な雰囲気、子供たちとのやり取り、写真、引き出しにしまわれた凶器。
肉欲を求める野蛮な訪問者、ローブの紐をやらしい手つきで触ったり引っ張る素振り。女はそれを嫌そうな表情で払いのける。口づけ、肩を撫で回す。
二階には幼い娘と年頃の娘が二人、娘の尻を優しく叩く時の愛情とは大違い。
娘たちのために仕事につく母親の姿、着替える仕草、胸元がちょっとはだけているだけなのにあんなにも色っぽい。クロフォードの素晴らしい演技。
「風と共に去りぬ」やジョージ・キューカーの「ザ・ウィメン」でも見たことのあるような黒人の女中(バタフライ・マックイーン(Butterfly Mcqueen)の方。ハティ・マクダニエルじゃなくて)。
スカートで膝を隠す一瞬、何度も交わされる口づけ、家族がいない間の情事、水着で他の男と泳ぐ、謎の音、男が見てしまった女の帰り際。
浮気の時に起こった悲劇、メーターが物語る命が消える瞬間。
女は悲しみを忘れるために前にも増して働く、プレゼントをゴミ箱に捨ててしまう野蛮人、注文で敷き詰められた回転からメモがなくなりお開き、見てしまったカウンターでの口づけ、何度も叩き落とされるグラス。
30分後には再び現代に戻ってくる。
また語られる過去、車、娘もどんどん破滅へと向かって歩みを加速させる、狂っていく娘の活き活きとした表情よ!
黒衣、女が破り捨てれば娘が頬をひっぱたく、亀裂の入る瞬間、列車、舞台の上で踊る目を疑う光景。
幼い娘の写真、一時の安息、誕生パーティーの裏で行われる蠢く黒い影、電話と決意・裏切りへの銃撃。家族を救うための身代わり、受話器の前でのやり取り・・・何もかも素晴らしい。