1.全編を貫くサスペンスと、観る者を引き付けて離さない脚本の巧さ。
物語はある夫婦が引っ越して来た部屋で巻き起こる事件の連鎖を描いたサスペンスで、誰の身にも突然起こるかもしれない恐怖を描いている。
謎が謎を呼ぶ展開で終始飽きさせないし、夫婦が所属する劇団が上演している「セールスマンの死」という戯曲が、物語に暗喩的な効果を生み出していてドラマに奥行きを感じさせる。
男と女、それぞれの立場の違いも象徴的に描かれる。イランではよりはっきりとその違いが表れていて、タクシーに乗り合わせた女性が男性と触れるのを恐れ席を変わってもらったり、演劇で裸役なのに真っ赤なコートを着ていたりといった描写で表されている。これらは監督がイランでの女性の立場に異議を唱えている訳ではなく、ただ現実を知ってもらいたかっただけと語っている。他にも、急速に建設が進む街の様子など、イランの現実が随所に描かれていてとても興味深い。また、とにかく夫婦役の2人の演技が凄くて引き込まれた。