1.《ネタバレ》 マドリードで平穏な日々を過ごす初老の女性、ジュリエッタ。現在付き合っている彼氏ともに近々ポルトガルへと引っ越し、2人で新たな生活を始める予定だった。だが、そんな一見幸せそうに見える彼女にも誰も知らない秘密の過去が。一人娘であるアンティアともう長い間音信不通で、お互いの安否すら分からない状態だったのだ。深い諦めの中に生きていた彼女だったが、旧友との再会が彼女の運命を再び揺り動かすことに。「先週、あなたの娘さんとコモ湖で会った。子供たちと一緒に買い物していたわ」。家族ぐるみで付き合いのあったその旧友の言葉に、心を掻き乱されるジュリエッタ。今、決断しなければ私は死ぬまで後悔することになる――。恋人とのポルトガル行きをキャンセルし、娘との唯一の繋がりであるかつてのアパートへと引っ越してきた彼女は、ただひたすら娘からの連絡を待ち続けることに。そんな孤独な日々の中で、ジュリエッタは最愛の娘へと一途な告白を書き始める。娘の父親との初めての出逢い、海沿いの田舎町での満たされた日々、そして母子を分かつことになるあの運命の日のことを……。過酷な運命に翻弄されるある一組の母と娘の物語を、過去と現代を行き交いながら描くヒューマン・ドラマ。スペインが生んだ巨匠ペドロ・アルモドバル監督の最新作ということで今回鑑賞してみました。冒頭、まるで女性器を思わせる赤いドレスを背景に映し出されるアルモドバルのクレジット、そしてキャスト・スタッフの一連の紹介が終わった後に突如として現れる抽象的な男性器の彫刻。もうこれだけで唯一無二のアルモドバル・ワールドへと引き込まれていきました。この変態チックなのに何処か高尚な世界観はやはり素晴らしいですね。そんな独自の世界観の中で描かれる母と娘の愛憎劇もまた、いかにも彼らしい憂いと熱情に満ちたものでとても良かったです。前半、ジュリエッタの家族が幸せであればあるほど、いつかこれも壊れてしまうことを分かっている僕たちは何ともいたたまれない気持ちにさせられる。この不安感の煽り方は絶妙にうまい。人は誰しも愛し合い慈しみ合いながら生きていく生き物だが、些細な行き違いによってそれもいつか憎しみに変わってしまうかもしれない。それでも人は――女は母となっていく。そんなアルモドバル終生のテーマが情熱的な映像によって見事にアートとして昇華されている。見事というほかない。ただ、ラストは賛否が分かれるところ。最後まで見せなかったのはいささか物足りない気もするけど、これはこれで良かったのかな。難しいところだけど、僕は充分満足でした。7点!