104.《ネタバレ》 「マトリックス」はあまり好きじゃないが、この映画は面白かった。
ウォシャウスキー兄弟(姉妹)がねっとり練り上げたネオ・フィルムノワール。
後の作品の様に撮影技術はそれほど盛り込んでいないが、それでも天から事の成り行きを見守るような視点が幾度も挿入され、酒瓶の栓を抜く瞬間に幾つにも増える虚像、スローモーションによって引き延ばされる死…等映像的なこだわりを覗かせる。
クローゼットの中に響く女と男の声、瞳を閉じた女の顔。そこから過去へと飛び、ことの真相を解き明かしていく。
配管工の力仕事を生業にするボーイッシュなコーキー、女として死と隣り合わせの生活を送るヴァイオレット。
コーキーは「女」であることを嫌がるようにジーンズや男ものの下着を身に着け、肉体に刺繍を刻み、工具と汚れにまみれて男らしく振る舞う。殴る時は拳を握りしめて。
ヴァイオレットはスラッと伸びた脚と胸元を強調する「女」とし生きてきた。殴る時も平手打ち。
そんな二人は理由もなく惹かれていく。エレベーターでふと視線があった瞬間から。
脚を眺めるコーキーの視線は野獣のように、ヴァイオレットの腕は誘うようにコーヒーを差し入れ、水道に何かを落とし、相手の手を握る。
二人が抱える大きな闇、壁から聞こえてくる声、声、声。
星の輝きは女を酒場から追い出し、繰り返される電話は線となって二人を結びつける。
二人の仲を邪魔する様に登場してくる野郎どもと血なまぐさい出来事。
ベッドの上と酒場で交わされる女たちの関係、手の動きと二人の愛はもう誰にも止められない。
野郎どもは壁が薄かろうが厚かろうが何だってしちまう連中ばかり。それが二人の決意を固めることになる。
何かを言いたそうな眼差し、車から摘み出されトイレに押し込められ、隣の便器と水に響き渡る暴行、ペンチが落とすもの。
裏切り、共謀、水場に詰め込まれる戦利品、ベッドの上に置かれる覚悟の証、ピアスがこじ開けるもの、カバンに詰め込まれたものが引き起こす怒りと衝動。
二人は恐怖に怯えながらも相棒を信じ続け、ひたすら見守り続け耐える。いつ暴発してもおかしくないマフィアたちを振り回して。
机の上に突き付けられるカバン、鍵、壁に刻まれる穴と死の連続。
模様替えで隠されるもの、染み出てしまうもの、垂れ落ちてしまうもの、タオルが覆うもの、ペンキの中に入れられるもの、部屋中を荒らし泣き崩れる狂気。
わけもなく飛び出し扉を開き乗り込むのは、拳銃突き付けられようが一発ぶん殴ってしまうのは相棒から寄せられた信頼に応えるために。
どんな状況でも不敵な視線を送り続ける男らしさがたまらない。相棒もそれに応えるために風呂場をかき分け、服を整え、誘い出して走り出す!
最後の最後までペンキと血にまみれる命の奪い合い、開かれる扉。