1.限られた時間の中で限られた数の映画を見続けて何度も感じてきたことだが、こういう決して有名ではないけれど間違いなく面白い映画の“情報”を得ずに、見過ごしたまま人生を終えてしまうことを考えると、ゾッとせずにはいられない。
そして、某ラジオ番組における某映画評論家の紹介で、このノルウェー映画の情報を知り得たことを幸運に思わずにはいられない。
企業間の“ヘッドハンティング”の仲介を生業にする主人公。潤沢な資産と名声、そして美しい妻を持つ彼は人生の成功者に見える。
しかし、そんな男が抱える“コンプレックス”と“裏の顔”を発端とし、突如として“ヘッドハンターたち”による壮絶なサバイバルゲームが繰り広げられる。
まず述べたいのは「娯楽映画」としての完成度の高さ。
決して難解でもなければ、大風呂敷を広げるわけでもないシンプルなストーリーの紡ぎ方が巧い。
笑えるシーンも、バイオレンスシーンも極めてバランスよく配置され、それぞれ馬鹿らしくなりすぎず、凄惨になりすぎない絶妙な平衡感覚でエンターテイメントのラインを渡り切ってみせる。
ストーリーがシンプルな分、ほんの少しバランス感覚を違えると、まったく違った印象の映画になってしまっていたかと思う。娯楽映画としての最良のラインを導き出した“つくり”は、見事としか言いようがない。
そうして描き出される映画の顛末の巧さがまた素晴らしい。
単純な“巻き込まれ型”のアクションサスペンスで終わるのかと思いきや、クライマックスでは主人公の男の虚栄心を抱いた悲哀をきちんと描く。妻を愛するが故に己を偽り続けた主人公が心情を吐露する様は、“普通の男”の一人として思わずグッとくる。
公私においてどん底まで落とし込まれ、心身ともにあまりに大きなダメージを受けた主人公が、「証拠を消さなきゃ」と力なく言い妻の元から逃げ出したように見える「巧さ」。
そこから見せる小気味良い展開と、「それで満足だ」というラストの主人公の表情が爽快すぎる。
低予算で作られた地味なノルウェー映画であることは確かだ。
ただし、きっと50年後も「面白い!」と言われるだろう傑作。