3.《ネタバレ》 エストニアといって思いつくのは精々、確かバルト三国のひとつだったかなと曖昧な記憶くらい。地理的位置からスラブ民族なんだろうぐらいに思っていたが違った、この映画の共同制作国としてフィンランドとあるように、この二カ国は民族・人種的に違いは少ないないらしい。強大な周辺国に囲まれた小国の歴史は言わずもがな、この映画に描かれる、国・民族としての悲哀もそこにある。はじめドイツ軍の軍服を着たエストニア人からなる部隊がソ連軍と塹壕戦を戦うシーンが続く。歩兵と共に現れたソ連軍戦車隊の猛攻を何とか耐え、多くの犠牲を払いつつ撃退する。その部隊の中の端正な顔をしたひとりの青年が主人公でもあるかのように目立って集中的に描かれる。
その青年の部隊に移動命令が下り、戦場も別の局面に変わる。彼の部隊が進む路上には、疲労色の濃い難民が列を成している。現れた飛行機からの機銃掃射がある中、立ち竦む幼い少女の命を救うなど、勇気と優しさの面を見せる。彼等は再びソ連軍に遭遇、銃火を交え戦闘に。その戦闘で件の青年は撃たれ、あっさり死ぬ。その最中にソ連軍の制服を纏った相手側の将校が突如戦闘中止を叫ぶ。所属軍は違っても、エストニアの同胞であるのに気付いたのだ、同じエストニア人同士、敵味方に別れ殺し合わなくてはならない状況に置かれたものの、同族で殺し合いたくないという意志が回避行動に駆り立てたのだろう。先程の青年をこの戦闘で射殺したソ連軍々服姿の青年が、自分が殺したドイツ軍服を着込んだ動かぬ相手に、憐憫と贖罪の気持ちからか、乱れた服を正し、身分証明書と挟んであった投函前の一通の手紙を発見する。
この辺りから主人公の立場が、ソ連軍に編入されているらしいこの青年に移る。彼はその手紙の差し出し先の住所に直接手紙を渡すことを決意する。ドアを開けた相手は美しい女性、貴方のご主人所持の手紙をお持ちしましたみたいな事を言いながら渡す。女性は主人ではありません、これは弟なのですと言う。自分が手に掛けたことは伏せながら、弟とする彼の最期の状況を伝える。食事を進められ、共に時間を過ごす内に親密になる展開。こうした通俗的なストーリー部分を含め、程よく抑制的な描写なのでそう印象は悪くない。ポーランド映画にも言えるが、ドイツとソ連軍の両国に侵攻され、国権を失う事がどういう事なのか、後世に伝え残す理由の他、その動機には怨嗟と憎悪の感情があるのも事実なのだろう。本作でナチ側の政治将校が、前線の兵士を労いながらヒトラーの名刺版の写真を配るのと比較して、ソ連側の共産党政治局員の動向を非人間的で、より陰険かつ邪悪な忌まわしい存在として描写されていたのも興味深い。