★1.《ネタバレ》 邦題が信用できないのは当然として、原題(Viking)までが諸国民の誤解を招きそうな名前になっている。 実際の内容は、現在のロシア国家(及びウクライナ)の起源とされるキエフ大公国(「ルーシ」)のウラジーミル1世の伝記のようなもので、予告編に出るような戦闘場面もあるが基本的には歴史物である。「2016年ロシア映画興行収入第1位」とのことで、実際かなりの力作に見える。 題名のバイキングは、そもそも上記「ルーシ」を建国したのが北欧のバイキング(スラブ人のいうヴァリャーグ)だったこと、及び主人公が最初の戦いに先立って北欧に赴き、新たにバイキングを戦力に加えたことに由来すると思われる。映像で目に見えるところでは、長距離の移動には川で船を使っていたのが明らかにバイキング風である。また序盤でロシア語の字幕が出ていたのは、主人公の軍勢に加わったばかりのバイキングがゲルマン系の言語を話していた場面と思われる。ちなみにベルセルクというのがただの狂人ではないことを見せている場面もあった。
粗筋を全部書いてしまうと、まずキエフ大公だった長兄ヤロポルクが不仲の次兄オレーグを殺し、次に弟のウラジーミル(主人公)がバイキングの軍勢を率いてキエフに侵攻、ヤロポルクを殺してキエフ大公の地位を継承した(980年とされる)。その後は遊牧民のペチェネグ人の攻撃を防ぐため東ローマ帝国(ビザンツ帝国)と提携し、そのビザンツからの要請に従って現在のクリミアにあった港湾都市ケルソン(もとは古代ギリシャの植民都市ケルソネソス)を攻略した。首尾よく降伏させてからは、それまでの悪行を悔いてキリスト教(正教)に帰依し(988年)、キエフにもキリスト教を広めたという話である。大まかに史実に沿った形と思われる。 その間、兄殺しのほかにも、ポロツク公国の公女を無理やり嫁にした件など結構非道なことをやっており、見る側として素直に共感できる主人公でもない。しかしそういう悪行があってこそ最後の改宗につながったという筋立てができており、主人公が次第にキリスト教を必要としていく過程も表現されている。宗教がストーリーの根幹になっているのは宗教嫌いの日本人なら気に入らないかも知れないが、このウラジーミルの時代に正教を受容したことが後にロシアの国家アイデンティティの重要な部分につながるので、ロシア側としてこの点は外せないと思われる。
そのほか視覚的にはあか抜けた印象で美しく動的な映像を見せている。町の作りなどはこれが正しいのか不明だが(あまりに粗末)、ポロツクやキエフの木造の城郭はそれらしく見えており、またケルソンがものすごい大都会という雰囲気も出していた。景観面でも主人公の立場の変化に応じて、ポロツクの森と雪、キエフの温暖な草原、黒海に面したケルソンの陽光といった差を見せていた。 登場人物としては主人公の妻(若手)と兄の妻(年増)が注目される。主人公の妻はツンデレで可愛いタイプだったが、途中で退場させられてしまったのは可哀想だった。 【かっぱ堰】さん [インターネット(字幕)] 7点(2019-03-16 09:59:27) |