★1.《ネタバレ》 カンボジアのポル・ポト政権時代(1975-1979)をくぐり抜けた親子の話である。題名のFUNANは古代の国名とのことで、「扶南」と書けばなるほど見たことはあると思うが漢字で書くのが正式ということにはならない。何でこの題名にしたのかは不明である。 基本はフランスのアニメのようで、フランスの俳優がフランス語で台詞を言っている。人物は素朴な絵のようだが、人間性や感情はしっかり表現されている。また土地の風物が美的に描かれていて、特に水田景観はカンボジアの原風景的イメージのようで印象的だった。まばらに立つ木は「オウギヤシ」という椰子であって、実を食用にする以外にも多用途に使えるものらしい。 この時期の過激な社会改造の企てにより全土で多数の死者が出たわけだが、映画では残酷な場面を直接見せていないのが良心的に思われる。革命勢力の一員が一般民衆同様の人情を見せたりする一方、自死した人物を追い込む発言をしたのが主人公の母だったりしたのは、一般民衆の内部でも加害・被害の関係があったことの表現と思われる。ただ密告の場面がなかったようなのは、人々の間に今も残る心の傷を刺激しないようにとの配慮かも知れない。
この時代の出来事について、人類史的な悲劇とはいえ異国の昔の話だからと突き放すこともできなくはないが、こういうことが21世紀の現代に起こるはずがないともいえない。勝手な思い込みで世界を作り変えようとし、そのためには一般民衆にどれだけ被害が出ても構わないと思う連中が今はいなくなったわけではない(その辺にもいるので困る)。 また親子の物語ということとの関連で重要なのは、世界を作り変えようとする連中はまず子どもを狙うことである。20世紀にはカンボジア以外にも複数事例があったと思うが、現代でも親のいない場所で子どもらの頭の中を作り変えようとし、さらには家庭を解体して親から子を引き離そうとする連中がいないかどうか見ていた方がいい。個人的にはこの映画で、主人公の息子が見ていた水鳥とその子どもらの姿が、われわれの守るべきものを象徴していたように思われた。
その他雑記として、ヤモリが鳴いていた場面は嫌いでない。また最初にプノンペンの場面で流れた流行歌らしきものはエンドクレジットに出ていたように、当時「クメール音楽の王」と言われたSinn Sisamouthという歌手の「PROUS TEH OUN」という歌だった。その人物もこの時期の1976年に殺されたとのことで、別映画「シアター・プノンペン」(2014)の追悼場面に顔写真と名前が出ていた。 【かっぱ堰】さん [インターネット(字幕)] 7点(2024-03-16 10:00:44) |