363.《ネタバレ》 ラスト30分の畳み掛けを見るだけでもこの“復讐”の物語は傑作だという確信しか俺は持てないのです。
「チェンジリング」の母親の赤い唇、「ミスティック・リバー」の男に情報を提供する謎の女の赤い唇。
町、家々、男二人の談笑、路上でホッケー、セメントに刻まれる名前・・・楽しく遊んでいた子供たちを引き裂く謎の男。
子供たちに立ち退くように言い、屋根を叩き、乗るように強制する。後ろに座っている男が座席の少年に不気味な笑みを送る。
友人二人は見守るしかなかった。何も出来なかった悔しさ。セメントに刻まれた名前だけが真実として残る。それを成長した“子供”が再び目撃し、思い出す。このファースト・シーン。
漆黒の闇、密室、森、不協和音、逃げる子供、文字が刻まれたまま固まるセメント、時間経過。
時を超えて同じベランダで語り合う2人。
煙草に火をつけようとした時、話しかけられて火をつけ損なう。椅子に腰かけ、男二人で語らい合い、心情を打ち明け、静かに泣く。
大の男が度々泣くのだ。そこには人間の弱さ、脆さも刻まれている。
車に女が入ってきた瞬間に不意に手が、イタズラをする彼氏、それがあんな事になるなんて・・・。
バーのカウンターの上で踊りだす女 洗礼と事件の対比、受け入れたくない娘との“再会”。
いきなり負傷して帰ってくる夫は女に泣きつく。女はそれを優しく迎え入れる。
いやいや怪我してんのに情事に入ろうとするなwww旦那を殺す気かwww
その夫が、後に泣く妻を優しく抱き留める。
地道な聞き取り調査、現場に踏み入ろうとする人々、父親のどうしようもない嘆き。
電話の向こうにいる赤い唇の女。その次は“影”で、観客だけにその存在が予告される。
残された写真の数々、雨が降る外、暗い部屋の中で激しく移動、亡き者の前で苦悩し、服を捧げ“仇討”を誓う。それが取り返しのつかない“過ち”だったとしても。家族を思うが故の狂気、暴走の悲劇。
バーの酒。既に注がれたグラスが幾つもあるのは男を酔い“潰す”事が決まっているから。4人目が来てから空気が変わる。
このラスト30分の加速の素晴らしさ。
少年たちの方も決着がつく。屋根に隠されたもの、少年たちを待伏せる者、ドアがいつ開いて他者が入ってくるのかという緊張。
闇の中で炸裂する暴力の恐怖、ナイフの切っ先の鈍い光。
二つの現場が交錯し、カットが徐々に短くなっていき、複数の視点が一つに収束していく事でより緊張を高める。
拳銃の閃光が曇り空の朝へと移る・・・過ちを犯してしまった男の心は晴れない。髪を乱してうなだれる。
再び現れる赤い唇の女は何を語るのだろう。
友人とはいえ、事情はどうあれ、それを黙って見過ごすしかない男のやり切れなさも何ともいえない。
すべてが終わった後の情事、海、パレード・・・「俺は忘れないからな」と指の“銃”で男を指す者の視線の冷たさ。それを甘んじて受け入れる男の表情。
後の「グラン・トリノ」では、その指の“銃”がすべての決着を付ける引き金になる。