71.《ネタバレ》 私はバイオレンス映画を好まない。タランティーノの代表作キルビルシリーズも見てはみたものの、ユマサーマンが美しいこと以外は、「やっぱりバイオレンス映画=血を好む人種のための作品」という既成概念をさらに固定化させただけだった。
しかし「イングロリアルバスターズ」を見た時からタランティーノは何かを持っている、と感じた。
その予感は、イングロリアルバスターズの次に作られた今作で、確信となった。
私が思うに、タランティーノも若い頃はただ「いかに残酷なバイレンスシーンを描くか」にだけこだわっていたと思う。悪役も、どこかマンガちっくなフィクションのキャラだった。
しかし、若い頃は何かテレくさくて隠していた、あるいは潜在意識の底で眠っていた”まっとうな正義”を、堂々とさらすことに抵抗感がなくなったお年頃に、彼もようやくなったということではないだろうか。
ナチスという悪を批判する「イングロリアルバスターズ」、そして黒人奴隷制・黒人差別を批判する「ジャンゴ 繋がれざる者」という”2大歴史上の悪”を、彼らしいバイオレンスの世界にサラリと落とし込み、見事に彼なりの”正義感”を表現した。
私はこの2作を「タランティーノ風味 社会派ドラマ2部作」とあえて言わせていただきたい。
彼らしいやり方で、”歴史上の悪”(ナチスと黒人蔑視の白人)に怒りの制裁を加える作品であったという共通点以外にも、これら2作では、面白い共通点があと2つ。1つは「イングロリアル~」ではヒトラーのいる映画館を、タバコの火で着火させたフィルム爆弾で業火で焼き尽くした。「ジャンゴ」では、ムッシュキャンディの手下達のいる邸宅を、パイプの火で着火させた爆弾で業火で焼き尽くした。タランティーノ式でいけば、極悪人は地獄の炎に焼かれて死ねということなのだろう。
もうひとつは、クリストフヴァルツが、この2作でアカデミー助演男優賞を手にしていること。同じ監督の2部作(だと私は思っている)で、連続受賞とか、かなりスゴイことだ。実際のところ、今作も彼の存在感は素晴らしすぎて、その話だけでこのコメント欄を埋め尽くすことが可能なくらい。敵との言葉での駆け引きのシークエンスは毎度見事で、彼の演技とタランティーノの脚本の華麗なるハーモニーといったところ。
「ジャンゴ」で描かれる黒人への残酷な虐待描写も、<タランティーノ=バイオレンス畑>という先入観で見れば「なんて残酷な!」と感じるだろうが、実際のところ黒人奴隷への虐待は、描写されているそのとおりの話であって、史実どおりの表現をしたまでのことであって、残虐なのはタランティーノではなく歴史上実際に奴隷をいたぶった白人達である。
ちなみに「当時は奴隷達がこんな目に合わされていたのか・・・」と、映画を見て知るという側面については、今作に限らず、たとえば「それでも夜は明ける」のように淡々と奴隷への虐待を描かれる作品でも知ることができるが、あちらは実話をもとにした映画がたまに陥る”脚色不足によるダラダラ感”が目立ち最後も”痛快なオチ”でもないわけだが、「ジャンゴ」のほうがやはり作られたストーリーであるがゆえに、飽きることなく鑑賞でき、”学び”と”面白さ”の一挙両得な作品で、黒人奴隷問題を描くものとしては、私は「ジャンゴ」が現段階でナンバーワン!だ。
そして劇中でシュルツの馬車を襲撃するために集まった白人達が、たいまつを持ち穴をあけた袋をかぶっているのだけど、穴のせいで前がよく見えないからかぶろうか外そうかでショーモナイ言いあいをしているシーンは、間違いなくKKKに対するタランティーノ式の風刺w