2.まずはこの、溢れ出んばかりのサービス精神に、ありがとうと言いたいですね。
伏線の回収、などというと安っぽいけれど、劇中に示される様々なモチーフが、思わぬ場面、思わぬ形で再登場して嵌るべきところにピタリとハマり、驚きや感動を呼び起こす。100分少々の作品に対していささか詰め込み過ぎて、オハナシがどんどん進められてしまい、もうちょっと余白とかタメとかがあってもよいのでは、とも思わなくはないですけどね。ただ、基本的にはここで再現されているのはRPG的な世界、だから展開がやや機械的になるのも仕方ないですかね。というよりここでは、ガサツで大胆な兄貴に対する、臆病で決断力に乏しい弟(主人公)、という対比があって、この本作の展開の早さから我々は「兄貴になかなかついていけない弟の気持ち」を共有することにもなります。
大体、「魔法で亡き父を蘇らせるチャンスは明日の日没まで」というタイムリミットだけでも充分に物語になり得るのに、「魔法不足で今は下半身しか蘇ってません」というヒネリ、どうやったらこんなコト思いつくんですかね。この下半身だけの父親の存在ってのがとにかくナゾで、本人はどういう状態で何を考えているのか(そもそも意志があるのか)最後までワケがわかんない存在なんですけれども、とにかくユーモラス。周囲の目をごまかすためにダミーの上半身を付けられてさらに動作がカオスとなり、笑いを呼びますが、一方で下半身だけあればダンスはできちゃって、親子共演と相成る感動も。
この作品の世界では様々な外見の登場人物が普通に入り混じって暮らしており、「外見での差別」という問題は解決(あるいは保留)されている世界なのですが、母親が付き合う男、つまり将来の父となるやも知れぬ男は、下半身が馬になっていて、主人公家族とは異質な存在。この男には無い「2本足の下半身」のみが復活するという設定は、ユーモラスでありつつも、何となく引っかかりも感じさせます。
そしてだからこそ、この将来の父も、必然的にストーリーに大きく絡んでくることになります。彼は旅に出た兄弟をこれ見よがしに心配して見せたりはしないけれど、彼らの冒険に振り回されることが、家族の一員になるための通過儀礼ともなっています。兄のポンコツ車のバンパーは簡単に外れてしまい、兄のガサツさを示す一方で、別の場面では将来の父に対する道標にもなる。1つのモチーフが複数の意味を帯びる瞬間。
あるいはポンコツ車の中に大量にある違反キップもまた、兄のガサツさの表れだけど、たくさんのそれが撒き散らされるシーンでは、何だかポンコツ車の涙のようにも見えて。
その他、様々なモチーフが様々な形で再現し、映画を彩るのだけど、そんな中でも、テーマは単純に「家族愛」というものを、ストレートに描き切っています。いや、「家族愛」と一言で言えば単純だけど、実は「家族愛」には多様な側面があるのだ、という事が、ここでは見事に描かれています。
優柔不断な弟が最後に見せる決断。この決断があってこそ、彼が、そして我々が、垣間見ることを許される、美しい瞬間・・・