11.《ネタバレ》 極度にディフォルメされているとはいえ、高度成長期の日本の空気をすごく表現している作品です。
日本の高度成長期とはプロジェクトXのような美談だけではないのです。
学生の頃、この作品をビデオで見て、資本原理というものを初めて理解しました。
今、改めて見ても、ものすごい情報量に圧倒させられます。
年齢を経て、登場人物の生活背景が想像できるからだと思います。
利益優先のシステムが肥大化して、誰も考える余裕が無い。まさにシステムという「巨人」の中に人間という「玩具」が弄ばれている様が描かれます。
システムが軌道に乗ると、部品である人間は大局的にものを考えなくなる。
この結果がたまに現れる企業の失態であろうし、その最悪の結果が原発事故なのだと思います。
お菓子会社の三つ巴の戦略、ライバル会社の社員同士の恋愛、友情の破綻、5人兄弟の貧乏暮らしの家庭でスターになれば人間どれほど豹変するか、家庭を無視して体を壊してまで出世する人間の悲哀、諦観したカメラマンの存在、脇役の女性テレビディレクターの言葉など、今見ると、あらゆるシーンが風刺的で衝撃的です。
今見ると、なにげない脇の言葉が印象的です。「テレビなんて誰もお金を返せなんて言わないからこの仕事が好きなのよ」
お菓子会社の宣伝部長のセリフも本質的です。「大衆は何も考えない。考えるヒマが無い。そこに繰り返しキャラメルはおいしいと訴えるんです」
お金のある政党の選挙活動そのものです。こういう本質的なセリフが矢継ぎ早に出て圧倒されます。
映画のテクニックとしては、終盤近くのダンスシーンが素晴らしいと思います。
これだけテンポが早くても、突然ストーリーを進めるのに支障がないシーンを延々とじっくり見せて、観客に考えさせる時間を与えているからです。
凡庸な演出ならこんなシーンは野添ひとみが踊っている1カットだけで説明がつきます。こういう演出が天才の仕事であると思います。しかしこの映画はいわゆる告発ものではありません。
今は風刺映画というジャンルがありません。そういう才能はドキュメンタリーに行ってしまっています。
若い人に是非観てもらって、考えて欲しいです。