15.《ネタバレ》 畳に座って縫い物をしてみたり、小さなアイロンのコードが上からぶら下がっていたり、買い物カゴからリンゴを愛おしそうに出してみたり、生活の細部を切り取る演出は相変わらず素晴らしい。 こういう生活の中での何気ない所作が、日本人の立ち居振る舞いの美しさとつましい生活を再認識させてくれる。 そして小津監督には珍しい、ドラマのある筋立て。 金に困った女はどうやって生きていけばいいのかと、正面切って問いかけてくるのは、映画製作当時はかなりのインパクトがあったんじゃないかな。 田中絹代の演技はこの映画でも見事で、階段を転げ落ちた後に、苦痛と苦悩で動けなくなるカットには息を飲んだ。 それに比べれば、男なんて適当なこと言いやがって全く気楽な生き物だなと、同性ながら恥じ入るラスト。 |
14.《ネタバレ》 観る前は、え、あの小津さんがこういう映画を?と思った。 女性のチャーミングな振る舞いを映画の演出のツボにしていた小津には冒険だったろう。 観てみると、なるほど小津の笑いがどこにもない。 この映画は興行的にも失敗し、小津はこれ以降、比較的裕福な中流階級の家庭を描くことになる。 しかし、鑑賞後、小津の感性で、このような敗戦後の日本の負の側面を描き続けたら、 どんな作品ができたろうかと惜しむ気持ちも僕にはあった。 【トント】さん [ビデオ(邦画)] 7点(2019-10-17 03:06:43) |
13.現代でも貧困により体を売る主婦は大勢いるわけで、別に戦後に限った話ではなく、現代的テーマでもある夫婦生活のカネと性、そして罪と罰の問題に切り込んでいる意欲作だと思う。隠し事が嫌だからと全てを打ち明けてしまう妻はどうかと思うが、夫も方も許しはするだろうが忘れはしないだろう。無理に自分に言い聞かせているシーンが印象的だ。そして、このまま不幸な結婚生活が続いていくんだろう。終盤のシーンはそういう夫婦の将来への不安定さに満ち満ちている。嫌結婚の小津らしい救いがない作品だ。当時39歳の田中絹代が28歳という設定はちょっと無理があるかな。 |
★12.《ネタバレ》 確かに小津らしからぬ作品という印象を受けます。 何と言っても田中絹代さんの演技が素晴らしいですね。 色んな表情が自然に出ていて。 印象的な部分は、絹代さんが体を売る直前のシーンですね。 鏡にうつった絹代さんと実際の絹代さんを交互に映して葛藤を表しているんだと思いますが、内面の声が聞こえてくるような田中絹代さんの入り込み具合が素晴らしいです。 そしてそのシーンの直後に枕と布団、タバコのカット、その次の麻雀での下品な会話で情事があったことがわかるという、無駄のない上手いやり方だと思います。 小津モンタージュとでも言うんですか。今の作家だったらそこら辺はもろに描写するんでしょう…。時代背景が生んだ名シーンかもしれません。 佐野周二さんも、かなり今風な髪型してらしていいです。 ニコニコしているだけのおぼっちゃまキャラよりこっちの方がずっと好きです。
【大経師】さん [DVD(邦画)] 8点(2014-09-13 17:15:47) |
11.小学校のすぐそばに曖昧宿があるとは大変驚きだが、小津映画らしからぬ異色さを発揮する内容にはさらに驚き。しかし「あんなことをなぜ」に代表される「あれ」「これ」「それ」がふんだんに出てくるのもやっぱり小津映画。戦後ほどない混乱期、女が一人で生活して難しさがわかるような気もする。 【ESPERANZA】さん [DVD(邦画)] 5点(2014-02-06 21:03:22) |
10.《ネタバレ》 小津安二郎監督の戦後2作目。今ではちょっと考えられないような話かもしれないが、終戦直後の時代はこういう話も普通にあったんだろうなと思いながら見ていた。田中絹代は相変わらず母親役がはまっていて、病気になった子供のために一度だけ不貞を働いてしまうという役柄だが、彼女が演じるからこそそういう設定にも説得力が感じられるのだろう。ただ、心理描写としてはうまくいっているとは言い難いものがあり、彼女の演技力に助けられた部分が大きいように思う。佐野周二演じる戦争から帰ってきた夫の気持ちは分からないわけではもちろんないが、葛藤や苦しみといったものがじゅうぶんに描き切れていないために、なんか単なるダメ男にしか見えず、ほとんど感情移入ができないままだった。最後に至っても階段から転落した妻を気にかけているように見えるが、うわべだけな印象しかないので、最後までこの夫を好意的に見ることができなかったし、一応ハッピーエンドな終わり方でもなにかしっくり来ないままだ。でもそのラストシーン自体は見事に映画的な演出がされていて印象には残るし、田中絹代が階段から落ちるシーンも何本か見たほかの戦後の小津監督の映画にはないような派手さがあり、印象に残る。ただ、全体としてはやっぱり凡作という感が強い。そうそう、老け役ではなく、若々しさを感じられる役柄の笠智衆はけっこう新鮮だった。 【イニシャルK】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2011-09-23 13:31:21) |
9.小津監督の異色作品。夫婦の貞操義務を題材にした状況設定が抜群に面白い。 ただし二人の心理描写は、完璧に描かれているとは言えず、 田中絹代と佐野周二の演技力でかなりカバーしてるな、といった印象。 やはりこういったお話は、溝口や成瀬監督の方がうまい。 ヒロイン田中絹代の、ジャッキーチェンばりのスタントシーンには驚いた。 相変わらず演技力は申し分ないし、彼女を観れただけでも大満足の映画だった。 【MAHITO】さん [ビデオ(邦画)] 7点(2011-08-16 21:04:39) |
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8.いやあ~もうね。とても小津映画とは思えない映画である。全く溝口映画のようなそれは田中絹代の描かれ方が小津的というよりは溝口健二的な絶える女、小津映画にあるユーモアが無縁の中での女の生き様、力強き女の態度、これを観ると田中絹代という女優の凄さが改めて解る。けして小津的映画ではないが、だからこそ故にこれまた小津監督がただの喜劇監督でもなきければホームドラマだけの監督でもない。作品全体に狂気的なものさえ感じさせるという意味でも小津安二郎という監督はやはり並みの監督でないものを感じずにはいられなくなる。小津映画としては正直言えば失敗作だと思うけど、どんな監督にも一つや二つの失敗作があるんだと思えるとそれもまた小津作品を惹きつける魅力なのかもしれない。 【青観】さん [ビデオ(邦画)] 6点(2010-10-10 22:16:09) |
7.《ネタバレ》 この作品は小津的ではなく、むしろ溝口的な作品である。 それは主演が田中絹代だからという理由によるものではない。 内容的に溝口的なのだ。 田中絹代演じる女性は、ひたすら健気である。 夫(佐野周二)がどんなに酷い仕打ちをしようとも、「自分が悪いのです」と言う。 これは観ていて辛い。 ここまで健気だと、観ていて辛いのだ。 途中まで「何と救いようのない暗い話だろう」と思って観ていたが、終わってみれば、心にじんわりしみいる、なかなかの良作であった。 夫婦の間で、どんな問題がおきようとも、「互いをより深く愛する気持ちを持て」ば、乗り越えられる。 ラストで語られる佐野周二のこのセリフが胸を打った。 「深く愛する気持ち」。 確かに夫婦がより深く理解し、末永く幸せにやっていくには大切な姿勢なのではないだろうか。 とても考えさせられる作品だった。 【にじばぶ】さん [ビデオ(邦画)] 7点(2008-02-26 21:13:01) |
6.《ネタバレ》 この映画が描いている倫理的な問題については意見が分かれそうである。僕個人はそういった倫理的な問題点を萱の外にしても、この映画は良く出来ていると言う評価が可能なように思う。それは、この映画が持っているサスペンスフルな緊張感が尋常でないからだ。妻の制止を振り切って外に出て行こうとした夫は、勢い余って妻を階段から突き落としてしまう。このシーンのカメラの静かさは、同情とか思い入れをまったく感じさせず、非情さささえ感じさせる。ゆっくりと起き上がる妻を、ただ見つめる。ラストでは、夫は妻を許し、抱きつく。両脇に垂れていた妻の両手が、夫の背中を這って出会う。このシーンの静かさも不気味なほどだ。これほどの緊張感がある以上、この映画は「映画的」に素晴らしいといわざるをえない。主人公達の選択の是非については、人それぞれで考えるか、あるいは結論にたどり着けそうもない倫理学の先生にでも任せればよい。 |
5.私としては、もう少し夫の葛藤をしつこく描いて欲しかった。その不足が、この映画を気の抜けた、いま一つ中途半端な作品にしてしまってる。夫の複雑な煩悶や絶望が克明に描かれなければ、単なる「時代のあおりを受けた可哀想な夫婦の話」で終ってしまう。だが、そこをギリギリの一歩手前で踏み止まって救っているのが、田中絹代の演技力である。彼女の役どころは意外にも複雑だ。この妻の捻じ曲がった貞淑さをここまで上手く表現できる女優はなかなか居ないだろう。この妻は、涙ながらに自らの不貞を詫び、止むを得ぬ事だったと許しを請う。この妻の態度の内に夫は回りくどい恨みがましさの他に、ある種のふてぶてしさを嗅ぎ取り苛つくのである。何処か彼女は「私は妻ですもの。子供の為、夫の為、家庭の為にこの位の事は当然ですわ」とシャーシャーと澄ましている。「どお?私って可哀想でしょう。でも偉い妻でしょう。」と言っているのが透けて見えるのだ。だからこそ、いともあっさりと告白してしてしまうのである。「隠し事はしたくないの」とか言って。鼻持ちなるぬエゴイストである。そのくせ、変にうじうじしている。この妻には凛とした所がない。唯、だらしなく疲労している。これでは夫はやり切れない。その上「性」という事が絡んでいるので夫の感情にのっぴきならぬ物が纏わり付くのである。夫としては、いっその事「何、言ってやがんだ!!この宿六めっ!!お前が兵隊にとられる時、それ相当の物を残して置いて行けばこんな事にはならなかったんだ!!この甲斐性無し!!」と妻から啖呵をきられたなら、まだ少しは救われたであろう。こういった夫の複雑な心理をもっとあくどく描ければ、もっと奥行きのある作品になったであろう。終戦後、小津は「これからは、もっと自分というものを出して撮りたい」といって意欲的にこの作品に取り掛かったそうだ。小津の女性観、と言うより結婚観には何やら慄然とさせられる。 【水島寒月】さん 6点(2004-05-10 21:23:59) (良:1票) |
4.今では死滅に近づいている倫理観、理由はともあれ姦通を働いた妻を許せない夫。絶対言っちゃダメですよ、奥さん!男は弱いしちっちゃいんだから。この男も相当酷いです。封建的亭主で階段から突き落としても、上から大丈夫か?と声をかけ、大きな心、深い愛と言いつつ、まだ全然こだわりながら、腰にしがみ付く妻を上から見下ろし偉そうに語り、怪我はないかってビッコ引いてるのを見てもいない。奥さん、こんな男とは別れなさい! 【亜流派 十五郎】さん 4点(2004-05-07 11:22:55) |
3.《ネタバレ》 小津監督の失敗作と揶揄される作品ですが、戦後でまだ国民皆保険になっていなかった時代、という時代背景を伺うのにはよい作品と思います。月島の小学校や勝どき橋、隅田川河畔が印象的です。 【its】さん [DVD(字幕)] 8点(2004-01-05 00:04:58) |
2.正直、現代とは違い過ぎる道徳観についていけませんでした。でも戦後って、こういう話って(語られていないだけで)意外と多かったんじゃないでしょうか。「小津は不気味」という【まぶぜたろう】さんの意見にはちょっと賛成(なぜ「ちょっと」かというと、その不気味さの正体が何なのか、つかみ切れていないから。ま、つかみ切れないからこそ「不気味」なのですが)。しかし、【まぶぜたろう】さんが鋭い分析をされていたのに対して、田中絹代のパンチラを凝視してしまったワタクシはまだまだ修行が足りない。 【ぐるぐる】さん 6点(2003-12-19 16:17:37) |
1.《ネタバレ》 この映画の物語を、現在、素直に受け入れることは難しいかもしれないし、公開当時ですら小津の失敗作とされた作品です。しかし、社会的ともいえるテーマを個人の問題として提示し、それを骨太く構成する小津の技にはまったく驚きます。子供時代の何気ない思い出話が娼家のシーンに生き、それは笠智衆と佐野周二とのやりとりにつながっていく、その伏線の旨さ、それが生きてくる構成の妙。イメージのみが優先される今の映画にはない、古典的なドラマツルギーの力強さに感動します。それにしても、階段から転げ落ちた田中絹代が起きあがろうとする、俯瞰ショットの不気味さは何なのだろう。ラスト、佐野の背中をはいずり回り、祈りにも似た身振りを演じる、田中絹代の不気味な腕は何なのだろう。その不可解、触感、唐突が、古典的以上の何かを現在に残しているように思う。小津はやはり不気味だ。 【まぶぜたろう】さん 10点(2003-12-15 10:02:13) |