34.「面白かった?」「うん!」
シアターを出て手洗いに行った。すると、同じ回を観ていたらしいとある父親と3〜4歳と見られる彼の息子が、そんなやりとりをしていた。
「ああ、とても良い映画体験をしたんだな」と、全くの他人の彼らを微笑ましく、また羨ましく思い、多幸感に包まれた。
映画を観るということの意味、特に映画館で映画を観るということの価値は、こういった多幸感に尽きる。
そしてそれを70年以上に渡って世界中に提供し続ける“ディズニー”というブランドの、相変わらずの底力と更なる可能性に、またしてもしてやられた。
何と言っても“良い”のは、ベイマックスの造形とキャラクター性だろう。
まんま風船が膨らんだようなボディが表すものは、見紛うことなき“癒やし”と“愛着”。
このキャラクターの言動や質感の一つ一つを見ているだけで、安らぎ、思わず笑みがこぼれてくる。
メインとなるキャラクターのその存在感だけでも、このアニメーションの価値は揺るぎないものとなっていると思う。
魅力的なキャラクター性にすがっただけの底の浅い癒し系映画は数多あるが、勿論ディズニー映画がそんな範疇に収まっているわけがない。
優れたバランス感覚とエンターテイメント性を伴ったストーリーテリングによって、ほんとうに誰が観ても「楽しい!」と言うしか無い作品に仕上がっている。
映像的なクオリティーの高さはもはや特筆する必要もないほどに圧倒的。
ベイマックスという新キャラクターの質感の素晴らしさに視線は集まりがちだろうが、普通の人間の造形やアクションにおいても、アニメーション技術の進化の極みが見られる。
サンフランシスコと東京が文字通り融合したような架空都市のデザイン性も素晴らしかった。
過去作を例に出して安直な表現を敢えてするならば、「ヒックとドラゴン」+「Mr.インクレディブル」+「ドラえもん」=「ベイマックス」といったところか。
舞台となる架空都市と同様に、今作はとても幸福な“和洋折衷映画”と言えるかもしれない。
他の名作アニメ映画と同じく、繰り返し見るほどに愛おしさが増す映画となるだろう。
少なくとも、父親と初めて映画を観に来た男の子にとっては生涯忘れられない映画となるに違いない。