オッペンハイマーのシネマレビュー、評価、クチコミ、感想です。

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オッペンハイマー

[オッペンハイマー]
Oppenheimer
2023年上映時間:180分
平均点:6.38 / 10(Review 39人) (点数分布表示)
公開開始日(2024-03-29)
公開終了日(2024-09-04)
ドラマ戦争もの歴史もの実話もの伝記もの小説の映画化
新規登録(2023-12-18)【Cinecdocke】さん
タイトル情報更新(2024-08-27)【イニシャルK】さん
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監督クリストファー・ノーラン
キャストキリアン・マーフィ(男優)ジュリアス・ロバート・オッペンハイマー
エミリー・ブラント(女優)キャサリン・“キティ”・オッペンハイマー
マット・デイモン(男優)レズリー・グローヴス
ロバート・ダウニー・Jr(男優)ルイス・ストローズ
フローレンス・ピュー(女優)ジーン・タットロック
ベニー・サフディ(男優)エドワード・テラー
ジョシュ・ハートネット(男優)アーネスト・ローレンス
ラミ・マレック(男優)デヴィッド・L・ヒル
トム・コンティ(男優)アルベルト・アインシュタイン
ジェームズ・ダーシー(男優)パトリック・ブラケット
マシュー・モディーン(男優)ヴァネヴァー・ブッシュ
デイン・デハーン(男優)ケネス・ニコルス中佐
トニー・ゴールドウィン(男優)ゴードン・グレイ
ケネス・ブラナー(男優)ニールス・ボーア
ゲイリー・オールドマン(男優)ハリー・S・トルーマン大統領
内田夕夜ジュリアス・ロバート・オッペンハイマー(日本語吹き替え版)
園崎未恵キャサリン・“キティ”・オッペンハイマー(日本語吹き替え版)
平田広明レズリー・グローヴス(日本語吹き替え版)
山路和弘ルイス・ストローズ(日本語吹き替え版)
白石涼子ジーン・タットロック(日本語吹き替え版)
森川智之アーネスト・ローレンス(日本語吹き替え版)
中井和哉デヴィッド・L・ヒル(日本語吹き替え版)
原康義ニールス・ボーア(日本語吹き替え版)
安原義人ハリー・S・トルーマン大統領(日本語吹き替え版)
伊藤和晃アルベルト・アインシュタイン(日本語吹き替え版)
咲野俊介ハーコン・シュヴァリエ(日本語吹き替え版)
加藤亮夫ゴードン・グレイ(日本語吹き替え版)
脚本クリストファー・ノーラン
音楽ルドウィグ・ゴランソン
撮影ホイテ・ヴァン・ホイテマ
製作クリストファー・ノーラン
エマ・トーマス
配給ビターズ・エンド
字幕翻訳石田泰子
あらすじ
原子爆弾開発という理論上は可能だが多くの技術的困難の克服と極端な機密保持が要求されるマンハッタン計画には多数の科学者と技術者が参加したがそのトップに選ばれて見事に職責を果たした理論物理学者のオッペンハイマーはプロジェクトを辞して研究生活に戻った後に政府の調査委員会に呼び出される。情緒不安定だった留学生時代から大学教員の職を得た後に左翼思想に目覚めた経緯や女性関係に至るまでの厳しい尋問の目的は核兵器拡散を妨げることだと思われたが、その過程でオッペンハイマーは趣味を共有する自分の広い交友関係の中に複数の共産主義者が存在した事実を指摘され、また原子爆弾開発によって戦争を終結させて多くの市民や兵士を救ったと賞賛されながらも自分の心の内に払拭し難い葛藤と忸怩たる思いがあったことに気づいていく。
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19.《ネタバレ》 まず、アメリカ公開から時間がたちすぎで事前情報も入りまくり、まっさらに映画を観られなかったのは本当に残念。そんな状況を作り出した配給会社に対して、私は結構怒っている。事前情報なんて蓋をしておけと思われるかもしれないが、そこそこ映画好きな人間がアカデミー賞作品に関する情報を完全遮断なんて無理に決まってる。正直、アカデミー賞のときに(事前試写で見たであろう)評論家やジャーナリストが、その内容をあーだこーだ語ってるのだって不愉快だった。これだけの大作・話題作を、まったく見られない状態でオスカーの日を迎えるなんて、なんと不幸なことだろうか。

そもそもノーランは過去に『ダークナイト・ライジング』で核兵器をものすごく雑に扱った前科がある。あれ以来、私はノーランが核を描く、という本作のコンセプトに懸念しか感じなかった。あるいは、あれがきっかけでもう一度勉強して、今度はそのリベンジなのか。そこを確かめたいという思いもあって、公開翌日に映画館へ。

さて、実際に見てみた感想としては、IMAXで見る「おっさんばかりの会話劇」は、過剰気味な音響効果も相まって見所は十分。たしかにこれは、後々まで語られる重要作品であるのは間違いないだろう。面白いのは、本作を見終わった身近なみなさんの感想が、「本当に同じ映画を観た?」と思うくらいバラバラだったこと。ある人は、核の悲惨さを描いたものだ。原爆被害のシーンを描かなくても(描かないからこそ)十分にその「恐ろしさ」を描いていたと言うし、ある人は、これはナチ対ユダヤ人の闘いとその遺産を描いた映画だと言い、別の人は赤狩り時代のアメリカを描いたものであって、核はむしろおまけだったと語っていた。オッペンハイマーの周りにいた戦前の共産主義者の闘士たちの奮闘へのリスペクトを描いた、という明らかに的外れな見解を熱弁してる人までいる。

なんでこうなったのかといえば、緻密なのにちょっと緩い(ゆえに鑑賞者の解釈の枠組が入り込みやすい)時間軸バラバラ構成のおかげなんじゃないかと思ってる。別々のシーンがバラバラに配置されているなかで、その個別の場面をつなぐ「物語」を観客一人一人が見出しやすい構造になってる。そう考えると、原爆被害を描かなかったことも理に適ってる。私は描いたほうがよかったと思ったけど、もともと核問題・原爆被害に関心がある人は、描かれなくても自分が知っている「悲惨な絵」を思い浮かべながら見れるわけだし、そうだからこそ後半のオッペンハイマーの苦悩にも感情移入しやすい。ところが、アメリカに多そうな核問題に関心ない人たちは、描かれないがゆえにそこではなく、男たちの嫉妬のドラマだったり、戦争・冷戦・赤狩りという時代を描いた大河ドラマとして、十分に楽しめてしまう。実に、賢い。作り手の物語に引き込むのではなく、観客がそれぞれを再構成しやすい構造こそが、この映画の勝利だったし、だからこその興行成績と賞レース圧勝だったのだと思う。

結論としては、映画としての出来はすばらしい。ノーラン映画のなかでも出色だし、これでオスカー取れてよかったね、という気分。だけど、この映画で『ダークナイト・ライジング』での前科を克服したとはいえない。むしろ、悪い方にパワーアップして「非社会派な映画」の最高峰に達したと考えるべきだと思う。
ころりさんさん [映画館(字幕)] 8点(2024-04-13 18:19:02)(良:1票)
18.《ネタバレ》  IMAXにて鑑賞。音響はド迫力でした。

 本映画関連で大昔にNHKのドキュメントがあり(マンハッタン計画 オッペンハイマーの栄光と罪)、ニューメキシコのすさまじい実験の映像とか、赤狩りの対象になり地位から追われた話は何となく知ってました(最近再放送)。

 本映画で個人的に一番興味があったのは

・オッペンハイマー氏が核兵器反対に転じたきっかけは何か?

でした。期待しつつ観たのですが、それっぽい要素は丁寧に漏らさず取り込まれてましたが、巧妙に恣意的に時系列を混乱させごまかされてるため、結局よくわかりませんでした。

 たとえば、有力候補で「終戦から数カ月後、広島・長崎の状況視察者の報告会が開かれたそれを見て改心?」という説があり、その場面もあるのですが(直接映像は悲惨すぎるため映画中では見せられないのですが)、一方、氏の主観的場面で講演時にフラッシュバックで人が焼き尽くされる映像が出て衝撃を受けるんですけど、順序が入れ替わっており、

・論理的展開:報告映画を観る→それが印象に残って講演時にフラッシュバックをする
・映画の表現:講演時にフラッシュバックをする→報告映画を観る

て感じに、実に巧妙に順序を入れ替えた問題の焦点をごまかす印象操作がされてるので、なんだかなあと。

 あるいはですね、核実験のすさまじい結果であの甚大な大量殺りく兵器に対する罪悪感を醸造したというごく人間的な説も考えられます。しかしオッペンハイマー氏の女性関係の節制のなさ罪悪感のなさ子供に対する無関心から、全然まったく氏に一般的な倫理観があるように見えずどうなんだろうっていう。まあ、(既婚ですが)以前付き合ってた女性の自殺への強い罪悪感の表現があるので「死」に対しては罪の意識があったのかもしれませんが。

 で、実験結果で罪悪感を覚えたとすると、本映画では、爆発映像が大きな花火を打ち上げたかのような実に美しい絵柄で描かれ、時間差のすさまじい爆音と衝撃波でその恐ろしさが表明されるのですが(爆音・衝撃波のフラッシュバックは何度も出てくる)、これも恣意的に「被害」を隠ぺいした表現になっていて、もちろん実験は人を避難させてたと思うんですが、ドキュメントの映像などであるように、近隣の建築物がすさまじい爆風で吹き飛んでたわけですけれども、映画中ではそういう「被害」も一切見せないわけです。だから、人ではないけど、人の作った構築物への甚大な被害を見て、これは良くないと、見識を変えたのでは? と想像したくなるのですが、そのような映像も全て隠蔽される。

 あと、世界初の核実験なので認識は甘く(実際、投下時の被害者数見積も大幅に少なく)、日焼け止めクリームにサングラスしただけでは到底足りず被爆してしまった人もいたと想像するんですが何も説明はなく(水爆実験の被爆者は大問題になりました)、本作で一番無神経な演出と思ったのは「実験が無事終わったらシーツを家に取り込んでくれ」てのがあって、映画では家が実験場からそれほど遠くない場所に見えたんですが(勘違い?)、そうすると外に干したシーツが被爆して大変なことになるのでは、ってのがすごい観ててヒヤヒヤした。爆発・炎・爆音・衝撃波等「目に見える」被害は認識するけれど、放射線被ばくなどの「目に見えない(聞こえない)」被害への認識がまったく甘く、無神経な演出をついついしてしまう、という昔ながらの悪癖は全然直ってないな、て感じでした。

 あと話の終盤オッペンハイマーがアインシュタインと実はこんな会話をしてた、というネタ晴らしがされるのですが、個人的意見としては、

「アインシュタインはそんなこと言わないんじゃないかな」

と思ってしまった。実際どうなんでしょう。

 そんな感じに、まとめると、前世紀最大の発明であると同時に最大最悪の大量殺りく兵器を作り出してしまった「罪」に真正面から対面しようとして、結局対面できずごまかした作品かなあと、私は認識した次第です。

 で、今年のアカデミー賞は本作と、大量殺りく兵器に真正面から立ち向かう「ゴジラ-1.0」が同時に各賞を受賞するという、非常に面白い巡り合わせになっており、現実では各地で戦争が巻き起こり、禁止されてたはずの非人道的兵器もバリバリ投入され、最悪、核使用の危機すらあり得る状況で、このような映画が高評価になったのは、世間への問題提議としては良かったのかも、と思ったりなんかしました。

 そんなところです。
simさん [映画館(字幕)] 6点(2024-04-11 13:21:51)(良:3票)
17.《ネタバレ》 原子爆弾の父こと、理論物理学者ロバート・オッペンハイマーの栄光と没落を描いた伝記ドラマ。クリストファー・ノーラン監督らしく、複数の時間軸を錯綜させたノンリニアなストーリーテリングが特徴で、膨大な登場人物を使い倒し、猛烈なスピードで、天才物理学者の矛盾に満ちた生涯を描いている。脚本で参考にしたのは4作品。伝記映画としての大枠は『アラビアのロレンス』から。脚本での参考は『羅生門』、『JFK』から。人物造形、ことオッペンハイマーの宿敵ストローズの造形は、『アマデウス』におけるサリエリを参照したのだろう。

本作を理解する上で決定的に重要なのは、(1)時間軸を理解すること、(2)カラーとモノクロパートの違いを理解することである。特にカラーとモノクロパートの違いは、本作の基本設定、世界観の根幹に関わっており、ここを理解することは本作への理解度、解像度を上げるためには重要である。

映画で語られる時間軸は主に3つ。
1、1926年から1947年にかけてのオッペンハイマーの生涯
2、1954年の聴聞会(オッペンハイマーが厳しい追及を受ける)
3、1959年の公聴会(宿敵ストローズが追及を受ける)

カラーとモノクロの違いは、カラーは、オッペンハイマーの主観で描かれる世界であり、モノクロは、オッペンハイマー以外の第三者(主に宿敵ストローズ)から見た世界である。
たとえばカラーパートにおいては、オッペンハイマーが実際に目にして、体験したこと以外は描かれない。広島、長崎への原爆投下の描写がないのは、オッペンハイマーが実際に見ていないからだ。ただし、彼の脳内イメージとして、原爆の被害を幻視し、煩悶する姿は描かれる。

かたや、モノクロパートでは、第三者の目から見たオッペンハイマーの姿が描かれ、ここではカラーパートとは異なる、オッペンハイマーの人となりが描写される。また、カラーパートで頻出するオッペンハイマーの脳内イメージは、このパートでは一切出てこない。

このように本作では、カラー、モノクロパートの使い分けが脚本上でも徹底されており、それはもはや2つの異なる世界観が存在しているといっても過言ではない。

つまり本作は、3つの時間軸と、2つの世界観がハイスピードで交錯し、それぞれが影響しあいながら、クライマックスへ突き進むという構成になっているのだ。このような構成を持つ伝記映画というのは、他に例を見ない。ノーラン監督の作劇術の円熟を示すものであり、それが監督の持ち味である豪快な映像技術と合わさって、第一級の伝記スリラーとなっている。

原爆投下の直接的描写がないことから、批判的な意見もある本作だが、そうした意見というのは、個人的には、先に述べた本作の基本設定、基本ルールをよく理解しないで述べられた感想に過ぎないという印象だ。

本作を観るにあたっては、被爆国として、日本国民として、といったバイアスを外し、なんの偏見もなく素直に鑑賞するのが良いと思う。むしろそうしたバイアスを抱いたまま本作を観ると、当時の米国の政治状況や、物理学者たちの人間模様が矢継ぎ早に描かれる展開に置いてきぼりにされるだろう。なお、先述の基本設定を理解した上で本作を観ると、本作への解像度と、本作の本質と問題提起をより掴みやすくなるだろう。

原爆投下の描写がなくとも、いやむしろ、それが直接描かれないがゆえの恐怖がよく描かれていたと私は思った。政治や軍事の指導者たちが平然と原爆投下や核兵器の増強を決定する場面それ自体が、政治状況次第で倫理観をかなぐり捨てる国家指導者たちの冷酷さ、無責任さをよく表現していたように思う。原爆の被害という現実が、国家指導者たちには数字上のできごととなり、原爆開発者たちには、自分たちの手を離れた、どこか遠い異国でのできごとに変貌する。それをどのように考えるべきなのか、映画は観客に突きつけてくる。感想は人それぞれだが、私には、原爆被害でさえ相対化と正当化をしかねない国家への恐怖と、オッペンハイマーが扉を開けてしまった核の脅威がいまだ現代でも引き続いていることへの憂いを強く感じた。
nakashiさん [映画館(字幕)] 9点(2024-04-10 11:44:00)(良:3票)
16.《ネタバレ》 まず物理的な問題として映画館の椅子に
3時間座り続けるのはきつかった。最後の一時間は尻が
痛くて痛くて・・・やっぱり劇場公開するなら2時間以内
で頼みますよ。

そして内容ですけど、プロジェクトXのような原爆開発の
技術的、物理的な困難をいかに乗り越えたか的なお話かと
思っていたら、全く違いました。

核開発への後悔や批判よりも、オッピーとストローズの
私的な遺恨を巡る泥仕合がドキュメンタリー風に延々と
描かれていて、公聴会での長々としたやり取りも赤狩り
も米国の国内問題であって日本人にとっては正直どうで
も良かったような(そもそもあそこにいたおっさん達って誰?)

日本国内では広島、長崎の惨状がほとんど描かれていな
いという批判があるけれど、そもそも当時も現在に至って
も米国人の日本に対する認識はこの程度のものだという
ことでしょう(Nagasakiを言い辛そうに発音していた)

とにかく登場人物が多くて誰が誰だか良く分からず
テレビドラマのように、字幕に名前と役職を表示して
ほしかった。
ジーンのおっぱい丸出しのシーンが何度もあったけどあれ
は必要だったのだろうか
公聴会でいきなり二人のセックスシーンが始まったりし
たのは意図不明であれでR15指定になってしまったのだろう
キムリンさん [映画館(字幕)] 6点(2024-04-09 16:22:41)
15.《ネタバレ》  映画のレビューは必ずしも客観的でも冷静でもある必要は無いワケで更に政治的に語られても良いワケで、と言い訳をしておいて。

 これって結局西側白人社会の自己完結映画なんじゃない?って。徹底的に白人目線なのよね。もう東洋人なんかわざと排除してる。原爆を唯一戦争に使ったアメリカの、その相手である日本の事なんて言葉と数字でしか出してこない、それはオッペンハイマーからの視点ゆえ、なんて理由付けで納得できるかしら?
 原爆を語る上で広島・長崎を抜きにして語れる訳はないのだけれど、開発に至るまでの過程と実際の使用と、そのバランス感覚は相当に悪い映画だと思うのね。
 『ライトスタッフ』みたいにソ連が(そしてドイツが)核兵器を開発してる、その競争に負けないためにアメリカも頑張ります、って努力と感動のドラマは実験の成功シーンを頂点に娯楽映画としてノーラン監督お得意のケレン味たっぷりに盛り上がってみせるわ(日本人なアタシ的にはそこに一切ワクワクしたりはできないのだけど)。
 で、その盛り上がりから一転、実戦投入による犠牲(の数字と白人に置き換えたヌルいイメージショット)、更に赤狩りを背景にしたオッペンハイマーの凋落、そして核拡散の恐怖を示唆する事で落としてみせるのだけど。今から40年前の『ウォーゲーム』や『ザ・デイ・アフター』で既に語られたモノから進化しているとも思えないし(進化があるとすればそれはノーランのエンターテイナーとしての面だわね)、『トゥルーライズ』『ピースメーカー』『トータル・フィアーズ』『インディ・ジョーンズ クリスタルスカルの王国』等に登場する「核兵器はただの威力がでっかい爆弾」のイメージを一新させたかと言えば、とてもそうは見えないのよね(せいぜい高熱の波って感じだわね)。
 核兵器を開発せざるを得なかった背景とか、オッペンハイマーのごくごく一人の人間としての小ささとか、物理学の発展からの到達点とか、でも結果として現時点で唯一アメリカって国が大義の名目(?)の上で多数の民間人に対してそれを使ったという歴史的事実の前では言い訳にしか映らないのよね。娯楽映画に落とし込んでアメリカだけではなく世界の問題ですよ、ってカタチにするあたり、それは違うんでないの?と思うわけ。

 赤狩りの再来みたいなハリウッドのイスラエル擁護パレスチナ排斥、プレゼンターとなった東洋人への軽視が目立ってしまった今年のアカデミー賞でこの作品が高く評価されたあたり、色々雄弁に語ってしまっている感じがしてイヤね。

 あ、ちなみにノーラン作品が苦手なアタシとしてはカット割が細かすぎて莫迦っぽい(会話シーンでの単純な切返しの多用ときたら!)、音楽が状況を語り過ぎていて五月蠅い、というのが映画そのものとしての感想。そんなもん。
あにやん‍🌈さん [映画館(字幕)] 1点(2024-04-08 15:28:18)(良:1票)
14.《ネタバレ》 ※すみません、以下長文です※

3時間の超大作、とても観応えあり。
でも私は及第点(5点)を付ける。
その理由は以下。

3つの時系列を巧みに操る緻密な構成は流石ノーラン、この構成で3時間突っ走るのは並大抵の技量の監督さんでは無理だと思う。
時折織り込まれるオッペンハイマーが夢想?妄想?する量子力学を視覚化したかの様なイメージシーンがとても魅力的。
天才が普段感じている感覚とはこういうものなのか?と疑似体験させてくれている様で映像の力を感じる。

鑑賞し終えてアカデミー助演女優賞はエミリー・ブラントが受賞するべきだったと痛感する。
それ位力の入った素晴らしい演技をしている。
彼女の喜怒哀楽を情感込めて演じている様を観るだけでも入場料の価値は有る。

翻って、本作のテーマでもある原爆に付いては、私が被爆国である日本(今や「唯一の」とは言えなくなったが)国民で有る事を差し引いても、正直なところ途中から怒りを感じる位に極度な生温さを感じた。

オッペンハイマーは決して功名心から原爆製造を指揮したのでは無く、戦争に突入していた時代背景(戦争の為ならばいわば無尽蔵に金が使える。実際に町を作ってしまった程)や、当時はまだ机上の空論と位置付けられていたらしい量子力学を自分の目で具体的に見る事が出来る「原爆」と言う手っ取り早い方法に対し、科学者故の好奇心・探求心から抗い難い魅力を感じてしまったのかと思える。
だが、それ以降の広島と長崎への実際の原爆投下を経て彼がその「効果」を目の当たりにし、以降の水爆製造への反対運動やそれが転じて赤狩りの対象となり、いわば転落の人生を迎える事になる程に彼が反対と思うに至った「効果」の描写が、本作では極めて抽象的に描かれ過ぎていて、教育の一環として広島・長崎の惨状を知っている日本人ならともかく、『第二次大戦を早期終了させた(←この言葉には反吐が出る!)』と教えられている彼の国を筆頭に他の国々の人達にはどうにも説得力に欠けているのではと思わざるを得ない。

何も私はノーラン監督に広島と長崎の惨状を写実的に・リアリスティックに描いてほしかったとは思っていない。
過去の監督作で彼の映像作家としての力量にひれ伏した身としては、ノーラン監督なりのもっと観る側の感情を揺さぶる、
一度見たら決して忘れる事が出来ない程の映像の力で広島と長崎の惨状を表現できた筈だと思ってしまうのだ。

もう一線踏み込んでいれば、反戦・反核映画として映画史上に残る稀代の名作に成り得たのにと思うと残念で仕方がない。

最後に、本作鑑賞の前に以下を一読・一見しておく事を強くお勧めします。
・オッペンハイマーのWikipedia。これを読んでも本作の場合はネタバレにはならないと私は思います。
・BS朝日で2024/3/16に放送された「町山智弘のアメリカの今を知るTV」...ロス・アラモスのDownwindersと呼ばれる人達=いわば世界最初の原爆による被爆者達の事を私は知りませんでした。 この事実を知り、本作の作成の裏で何が有ったのかと勘ぐってしまった程です。

世界各国の老若男女が観て議論するべき作品で有る事は間違いないのですが、上記諸々含め私の採点は5点です。
たくわんさん [映画館(字幕)] 5点(2024-04-08 09:34:03)
13.《ネタバレ》 約7か月ぶり2度目観賞。原爆を製造した男の生涯を、3時間かけて綴る伝記ドラマ大作。米アカデミー最優秀作品賞受賞作。世界を破滅させるブツを造っちまったオイラ。賞賛と自責の念の間で葛藤。キリアン・マーフィー、鬼気迫る名演で米アカデミー主演男優賞受賞。クリストファー・ノーラン監督、独特の世界観を表現して悲願の米アカデミー監督賞受賞。2024年を代表する作品。序盤に、愛人とのとっても濃厚なアリガタシーン振る舞い。
獅子-平常心さん [映画館(字幕)] 6点(2024-04-07 05:27:40)
12.《ネタバレ》 いやー相変わらずのノーラン節で、情報量が半端なく時間軸も3つあるので最初は???で集中力が必要(毎回そうだが)。
あえて事前の知識等も身に着けていない状態で鑑賞したので頭がパンッパンですよ。でも終盤で全てがつながり理解できるのはさすがノーランの手腕だなと。映画の始まりにプロメテウスを持ってきて、序盤の象徴的なリンゴ、オッペンハイマーの観念的幻想などの演出も上手い。緊張感のある音楽を使い3時間ダレずに観れるのもすごい。
情報量半端ないのに主人公オッペンハイマーの心中がはっきりと明示されず、複雑な人間性を表現できている点は素晴らしいと思った。

一方で日本人としてはやはり原爆に対して思うところがあり、総じてエンタメな作りになっている点やマンハッタン計画のシーン、原爆投下後の展開というのはなかなか複雑な心境。皮膚がめくれる、炭化した人間など原爆の幻想を見て思い悩み苦しむ姿は描かれるが、ちょっとその描写が甘いんじゃないかと思ってしまう。
でも原爆の映画じゃなくてオッペンハイマーの映画として見るならそれも仕方ないか…いやしかし…。
周辺情報を収集して再鑑賞しようと思います。


本国では年齢制限つきで3時間の大作としては異例の大ヒット、アカデミー賞では総なめといった大成功をおさめた作品となったが、どういう風にこの作品を観てどう感じたのか、何が観客にウケたのかというのが気になる。

フローレンス・ピューがあっけらかんと脱いでいたのはびっくりした。正直そういうタイプの俳優だとは思ってなかったので。
エミリー・ブラントは助演女優賞獲ってもよかったのでは?と思うほどの熱演でした。あの怒りで顔真っ赤にしてるのが忘れられない。
eurekaさん [映画館(字幕)] 8点(2024-04-03 11:39:49)
11.《ネタバレ》 原爆の父オッペンハイマー博士の半生を描いた伝記映画。ユダヤ人である氏は絶対にナチスに先を越されるわけにはいかなかった。恐怖を抱えながら研究・開発に邁進するが、やがてヒトラーが自殺、そしてドイツは降伏した。先を越されるという懸念した事態は避けられたのに、彼は日本に対して核を使用するよう進言する。制空権を奪われ、連日の空襲で焼け野原と化し、もはや瀕死と呼んでいい国に対してだ。その後の世界において主導権を握りたかったアメリカの思惑によるものとされるが、政治家ではないオッペンハイマーがこの主張をしたのは自身の功績を国内外に示したかったからとしか思えない。科学者の性と言うべきか。それでいて、8月6日以降は急に罪悪感に苛まれ、より強力な水素爆弾の開発で競い始めた米ソに対しても、どうにか歯止めをかけられないものかと苦心する。矛盾するようで矛盾しない、実に人間らしい主人公をキリアン・マーフィーが好演。映画的にはだいたいこの辺りがピークかなと思うが、その後の赤狩りを背景とした戦いもアカデミー助演男優賞に輝いたロバート・ダウニー・Jr.の存在感もあり、なかなか見応えがあった。3時間だれることのない優れた出来。アカデミー作品賞も納得の一本だ。
リーム555さん [映画館(字幕)] 8点(2024-04-01 20:46:56)
10.《ネタバレ》 歯車は回りだしたら止まらない。科学も政治も人類破滅の日も。今もその日に向けて着々と回っている。
長尺だがあまり飽きさせないとは思う。全体的にわかりにくい。まず公聴会のくだりがわかりにくい。登場人物が多めで見分けがつかないというか聞き訳がつかない。セリフだけで誰それがと言われても欧米の人名と実際の顔は対応が付かないよ。またカラーのシーンとモノラルのシーンの使い分けがわからない。誰かの解説に頼ればわかるようになるのだろうが、そうまでしたいとは思わないし、そうしないとわからないのであれば作り方の失敗と言える。ああいう愛人なら私も欲しい。
ほとはらさん [映画館(字幕)] 7点(2024-04-01 19:29:36)
9.並行世界のように異なる時間軸が入り混じって描き出されるストーリーは、「事実」のあり様を敢えて意図的に混濁させ、多角的な“視点”と“認識”を創出している。
「原爆の父」として、特に我が日本にとっては、切っても切り離せない人物として存在するJ・ロバート・オッペンハイマーの目線と人生観を、一つの視点として描き出した本作は、紛れもない傑作である。そして、やはり日本人こそが、腰を据えて観て、様々な感情を生むべき作品だろうと思った。

瀬戸内エリアで生まれ育ったこともあり、広島の平和記念資料館や原爆ドームへは、何度も行ったことがある。訪れるたびに、人類が生み出した「業火」の残酷さに愕然とし、胸が掻きむしられるようだった。
そこに展示されているおびただしい数の残骸と残穢、その一つ一つに残る悲痛な記憶に、涙が止まらなかった。
そして、あの「爆弾」を生み出した人物の所業を呪わずにはいられなかった。

ただ、その当人のことを決して積極的に知ろうとしてこなかったことも、また事実だった。それは多くの日本人にとって共通する事実ではないだろうか。
この国で、戦後の現代社会に生まれ成長してきた者として、必然的に原爆投下の事実と、それがもたらした文字通りの“地獄絵図”は、子供の頃から学校の授業で、漫画で、映画で、写真で、そして被爆者の経験談で、繰り返し見聞きしてきた。


しかし、それをもたらした一人の科学者の人生模様と、彼が生きた社会及び世界の実態に対する認識はほとんど皆無だったと言っていい。

本作を観終えたあと、NHK「映像の世紀 バタフライエフェクト」のオッペンハイマー回を観て、彼が天才科学者として辿った人生の、その一端を垣間見た。
“一端”ではあるけれど、その人生を知って思ったことは、彼が本当に得たもの、最終的に心を埋め尽くしたものは、栄光でも苦悩でも無かったのではないかということ。
そんな都合の良い“言葉”では、彼が“生み出してしまったもの”に対する功罪は推し量れないと思えた。

ブラックホールの研究に傾倒し、時代の流れのままに原爆開発の中心に突き進み、文字通り世界の在り方そのものを変えてしまった男がたどり着いた境地は、あらゆる感情を呑み込まざるを得ない「虚無」そのものだったのではないか。
キリアン・マーフィーが演じたオッペンハイマーの瞳には、野心や後悔すらも呑み込む深い漆黒が広がっていた。それは奇しくもすべてを呑み込むブラックホールを彷彿とさせた。




実は鑑賞から一ヶ月近く経っても、なかなかこの映画に対する感想がまとめきれなかった。いろいろな感情が渦巻いて整理しきれなかったからだ。
題材故に、日本公開が随分と先延ばしになった経緯があるが、もし本作が日本公開に至らなかったならば、それこそあまりにも愚かなことだったろう。
繰り返しになるが、この映画は、世界で唯一の被爆国であり、原子爆弾による死屍累々の上に生きる日本人だからこそ、しっかりと鑑賞して、様々な感情を巡らせるべき作品だと思う。

劇中、ヒロシマ、ナガサキの惨状そのものを映し出さなかったことに対する是非が問われていたようだけれど、それを描き出さなかったことが、必ずしも本作の主題において無責任なことだとは思わなかった。
むしろ直接的な地獄絵図の描写がないからこそ、オッペンハイマーをはじめとする当時の全世界の科学者たちの宿命と、彼らを含む社会のエゴイズムと狂気の様が際立っていた。
そしてその全世界的に渦巻いたエゴと狂気こそが、彼らを踏みとどまる余地すらない無間地獄へと誘い、その地獄は今なお続いているとういことを、この意欲的な映画は雄弁に語り尽くしていたと思う。

原爆開発に限らず、歴史や人間の功績は、常に闇と光を併せ持つ。様々な“視点”によって、断罪と称賛はとめどなく入れ替わり続ける。
“毒林檎”をすんでのところでゴミ箱を捨てた男も、世界を滅ぼす力を持つ爆弾を生み出した男も、ただひたすらに科学に邁進した一人の人間なのだ。

そして人類は、今なお世界の終焉そのものを天秤にかけて、あまりにも危うい葛藤を続けている。
“毒林檎”は、今この瞬間も、アンバランスな天秤の片側でその重みを増し続けている。
果たして、人類は自ら生み出してしまったその禁断の果実を、ゴミ箱に捨て去ることができるのだろうか。
鉄腕麗人さん [映画館(字幕)] 9点(2024-03-31 22:17:15)
8.《ネタバレ》 長い、とにかく長い・・会話も長いが、見せ場もてんこ盛りで長い。

オッペンハイマーの人物像と太平洋戦争の時代のアメリカを丁寧に描いているが
ここまでの物量が必要だったのだろうか・・? 女好きの下半身事情とか
原爆の開発研究課程の人間関係に、最初の核爆発実験シーンも
水爆を否定し共産主義を疑われて窮地に陥る後半の顛末も、もっと編集して
短くする事が出来た筈だし、普通の監督なら、制作スポンサーサイドから要求された筈。
今回は、大御所になってしまったノーラン監督のわがままを通してもらったのだろう。

しかし、長すぎて飽きてしまったのは事実だ。 どう考えても2時間以内の映画にできた筈。
だって大した中身が無いんだから・・
核爆発による大量破壊兵器の問題は、被害が広範囲過ぎて、軍隊だけでなくその何倍もの
民間人が巻き添えになる皆殺し兵器だという点。 そして放射能による長く続く悪影響。
その現実を理解していながら、敵国に遅れる訳に行かず研究を急ぐ科学者チームのリーダーが
その成功により、戦争終結し英雄扱いされる中で、急に冷めていき、更に強力な水爆の開発の
依頼が来たのを拒否。そして原爆開発チームの一部にソ連のスパイが見つかり、栄光の座から
容疑者へ転落し、女癖の悪さをも暴露され女房との仲も最悪になる終盤。
この物語を映画にするのに、あれ程の細かいエピソードを肉付けする必要があったのだろうか。

映画館を見渡すと、高齢者が多くて笑ってしまったのだが、かく言う自分も引退世代、
トイレが持つかどうか不安である。 実際隣の同世代の客は核爆発実験の後でトイレへ行き
戻ってきたが、ラスト30~40分を見ずに出て行ってしまった。
見るからに足腰の不自由な80代のお婆ちゃん、良くぞ耐えたものだ。(他意は無しです)
暖房効きすぎで暑過ぎる館内環境は、発汗でトイレ問題解決の為なのかと思ってしまった。
と言うわけで・・映画は長すぎてはイケないというのが、自分の判断基準の一つである。

それから気になったのは、ただのドラマシーンに大音響重低音の効果音はやり過ぎだ。
先日見た砂の惑星レベルの地響きと振動が、ドラマの中に何度も使われていて煩い。
1度ならまだしも、10回も20回も繰り返す演出は、インパクトを超えて嫌味になってる。

そしてエンディングがまたイマイチ。科学者の名前を付けた映画なのに、どんな人生を
終えたのかは描かれない。 名声を失った後に、核戦争の未来を想像するシーンで
終わりって・・ 中途半端感が大きい。
てな事で、この映画に高得点を付ける気にはなれなかった。アカデミー賞で話題だけど
そこまで優れた作品かと疑問が残る。
この長さの映画なので、セルかレンタルで自宅鑑賞を強く推奨します。
で気が付いたら、自分の投稿も長過ぎでビックリ。 

追伸・・日本語字幕の文字が、かつてない大きな文字でした。それだけ会話の中身が
     重要な社会派ドラマ映画なのでしょう。 その新しい試みは賛同しておきます。
グルコサミンSさん [映画館(字幕)] 6点(2024-03-31 20:16:04)
7.鑑賞して4時間近く経っているが、頭が重い。。。鑑賞した人にはそれがわかるはず。。
・・・。

NHKのクローズアップ現代で、桑子キャスターと監督の対談を見て、この作品を知りました。
どんな難解な物語になるのか。。。きっとついていけないだろう(テネットの時のように)。。と思いながら、劇場へ。脳がまだ思考停止していない昼間に。

2024年3月31日。
日本公開後初の日曜日。劇場内は、ざっと40人といったところだろうか、、年齢層は高めに感じた。
3時間の大作。さらにノーラン監督の難解(だろう)物語。
ここにいる全員がエンドロールまで辿り着けるのか。何人が途中退場するか。。。それも楽しみの一つだった。私は3人は退場すると踏んだ。

結果
退場者は1人だった。トイレに行ったか、退場したか、、、微妙な時間だったが、戻ってこなかった。きっとついていけず退場したのだろう。
私もセリフと音と、映像で脳が爆発寸前のところまで来てたので、退場したかった。。

この中でついていけた人間は何人いたのだろうか。
ノーラン監督の作品。。。かなりの覚悟を持って挑んだたが、そのエネルギーを受け止める脳のスペースが全然足りなかった。

物語を語るには、一回見ただけでは不可能。
人物相関を自分で描いて、時間軸を整理して、2度、3度見る必要があるだろう。。

クローズアップ現代で監督は、「1つの作品を完成させた時、“問い“が必ず残る。次の作品はその“問い“を拾い上げるところから始まる」と語っていた。
この作品を見て、自分なりの“問い“を考えたいと思う。
へまちさん [映画館(字幕)] 6点(2024-03-31 19:43:46)(良:1票)
6.《ネタバレ》 専門用語が次々に現れ、時系列を交錯させ、培ってきた技法を総動員させたクリストファー・ノーランの力作だが彼のベストではない。
恐らく半分以上は話を理解できなかっただろうし、あれほどの会話劇で本国アメリカで記録的な大ヒットしたことは、ノーランのブランドがなせる業なのか、核兵器を巡る世界情勢の重大な危機に関心が大きいのか、その両方だろう。

唯一の被爆国である日本にとって胸糞悪いのは事実で、戦争という熱狂によって人道・倫理観のブレーキが壊れ、戦場が兵器の実験場に変わり、新たな秩序と発明が生み出されていく。
戦場とは遠い世界でチェスの駒を操れそうな位置にあり、やがて自分自身も利用されて棄てられていく様が同じ天才学者を描いた『イミテーション・ゲーム』に通じるものがある。
国のエゴと利害の一致によって身動きできなくなっていく理不尽と葛藤と矛盾がオッペンハイマーに強烈なストレスとして画面に発露される。

広島と長崎の投下シーンが一切ないのは予め知っていた。
これは日本への配慮とも言えるし、挿入したとしても"オッペンハイマーとは何か"をぼかしてしまうので妥当とも言える。
英雄でもなく、悲劇の人物でもなく、功績と名誉を回復しても、これらは彼以外の大多数の所有物でしかなく、本人がどう思っているのかは知る由もない。
彼がいなくても、誰かが原爆を作り、どこかで投下されていただろう。

全人類を破滅させることができる発明が世に出てしまった以上、もう止めることはできない。
昨今に論議を巻き起こしているAIが世に出てしまったように。
現実、国の最高権力者という名の狂人が核兵器というキャスティングボードを握っている。
話し合いで解決できない相手に我々だったらどう向き合うか?
もはや「核兵器について議論しない」という日和見な選択肢は残されていない。
Cinecdockeさん [映画館(字幕)] 6点(2024-03-30 22:40:46)
5.《ネタバレ》 作品賞受賞も納得の重厚なドラマでした。
いやあ、でも、だいぶストーリーには置いて行かれましたね。字幕では膨大な情報を処理しきれません。
マンハッタン計画と、赤狩りの聴聞会まではわかるのですが、R.ダウニーJr.の熱演は光るものの彼が主役の公聴会のパートのつながりがさっぱり理解できずでした。日本人でストローズって人を知っている人ってあまりいないでしょう。そもそも、このパートってそんなに必要だったかな?
原爆の被害の描写がない、ってことがこの映画が国内公開がここまで遅れた理由とのことですが、過剰反応でしょう。映画全体としてはしっかり反核、反軍拡の主張でした。オッペンハイマー自身が、最初はただのプライドや競争意識だけに駆られて始めた原爆開発が、それが実際に使われるに至って強い後悔にさいなまれていく様子がよく表現されていたと思います。背景が重低音とともにぼやけて震えだす、という演出はシンプルではあるけれど、本人の不安感をよく伝えてくれていたと思います。

アインシュタイン、ボーア、ハイゼンベルグ、ローレンス、ベーテなどの巨人たちがどんどん出てくるし、ほんのちょい役だけどフェルミやゲーデルまで顔を出すところは、昔このあたりを学んだことのある自分にはちょっとうれしい感じはありました。
Northwoodさん [映画館(字幕)] 8点(2024-03-30 17:56:13)(良:2票)
4.トリニティ計画が成功して大の大人たちが狂喜乱舞するシーンは本当に恐ろしく、日本人としてもかなり苦しかったです。
でもお話自体はなんのことやらさっぱり分からず…登場人物が多すぎるし時間軸がバラバラ。どうして本国で(バービーと並んで)あれほどヒットしたのかがよく分かりませんでした。オッペンハイマーは日本で言う龍馬や信長みたいなものなんですかね?機会があればいつか、もう一度観てみたいと思います。
多くの米国民が本作に触れて原爆、そして日本について関心を持って貰えれば幸いですね。
ノーラン作品はダークナイトから劇場で観ていますが、次はアクションかSFが観たいな。
Kの紅茶さん [映画館(字幕)] 7点(2024-03-30 01:20:45)(良:1票)
3.トップバッターと2番手の方々に補足して感想と鑑賞の心得を書かせていただきます。 まず、英語圏では今までに千冊を超える原子力・原子爆弾開発関連の書籍が発刊されていてそれはあたかも日本で戦国時代から安土桃山時代や幕末についての歴史本が詳細な考証がなされた書籍から歴史的人物の発言などのフィクションを連ねたものまでが読まれている様に似ています。だから本作品中で科学者の誰かの名前が発せられると、書籍や百科事典などで知っているその人の面影に近い登場人物をスクリーン上に探すのが英語圏の鑑賞者なのです。例えばエドワード・テラーですがゲジゲジ眉毛でアクの強い系イケメンのこの人が水爆を巡ってオッペンハイマーと対立するのは冷戦時代になってからでロス・アラモスではテラーは理論計算部の部長に自分ではなくハンス・ベーテが選ばれたことでオッペンハイマーを逆恨みし、水爆開発関連でベーテが 2024年現在唯一のノーベル賞受賞者になっていることもマンハッタン計画の科学者で唯一21世紀まで生きた(2003年没)テラーにとって痛恨の記憶となりました。作品中、キラ星のごとく原子爆弾・原子力開発関連でノーベル物理学賞と同化学賞を受賞した科学者のそっくり俳優が登場して名前も出ています。この作品の一つの見方として、理化学事典などに付属しているノーベル賞受賞者と其々の業績を見てできる限り理解しておくとわかりやすくなります。原作の「American Prometheus (邦題: ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者)」も筑摩書房から邦訳が出ているので公立図書館などで購入してもらって一読するといいと思います。わたしは十年ほど前に原書で読んだので人物のフォローに問題はありませんでした。テラーの件がそうですが、本作品では時間軸に沿っていないエピソードがかなりあります。米空軍がカムチャッカ半島(だったか)上空でソ連の核実験の痕跡と思われる放射線量上昇を検知したくだりなど実際と5年はずれています。その上に「滝田栄(最近では松本潤)の家康」ように意図的に実在の人物とイメージを変えてもいます。オッペンハイマーの妻のキティと愛人のジーンは容姿もキャラも逆になっていてこれが助演女優賞を受賞出来なかった理由かもしれません。わたしとしては広島に原爆が投下された直後の一般アメリカ人の熱狂に加えてオッペンハイマーの内面の悲しみや葛藤が理解されればこの作品が作られたことと日本で上映されたことに意義があると思います。オッペンハイマーは紛れもなく原爆の父、エドワード・テラーは水爆の父、エンリコ・フェルミは原発の父でわたし的には オッペンハイマー + フェルミ = プロメテウス なのですけれど本作品ではフェルミは顔出しもクレジットも無いような存在だったのが残念でした。でもこれ以上話を複雑にしないためにはまあ仕方ないです。
かわまりさん [映画館(字幕)] 9点(2024-03-30 00:30:08)
2.《ネタバレ》 (2024/10/12再見)
初見時は正直(情報量の多さに)付いていけないと感じながら観るしかなかったのですが、改めて観てみると、少なくともオッペンハイマー氏の秘密聴聞会(所謂「オッペンハイマー事件」)と、あとその数年後のストローズの公聴会の時系列+顛末を(事前に)理解していて、加えて主要キャラが(政治的&学術的に)どういう人物なのか、というトコロが整理されて居るのなら、思ったよりスムーズに観てゆけるかな~という気もしましたかね。要はシンプルに「前提知識必須」な映画である、と(⇒でも、言い訳ではねーですが、オッペンハイマーの聴聞会とストローズの公聴会が数年ズレてて+どういう関係性の事象か、なんて前提無しの初見じゃ絶対分からないと思いますケドね)。

その上で、ダレるトコロも無いしテンポも抜群だから(3時間の長尺であっても)非常に観易いし、単純に2回目ながら再び非常に面白く観れちゃったのは確か+内容も色々な意味でやはり意義深い映画だ、とも思ったのですケドも、結論的には(初見時より1点ダケ加点しての)この点数にしておこうかと思うに留まりました。理由は、まずは根本的に、このレベルまでに鑑賞者側の「事前準備」が必要であり、かつ、実際に観てみた時の感覚としてのテンポの好さ・中身のゴージャスさ…とゆーのは逆に言えばコレでもまだ「尺が足りてない」というコトだと思ってしまったのですよね。私としては、それってまた根本的には「映画のフォーマットには乗り切ってない内容&題材だった」というコトに思えてしまったのですよ(⇒プラス、やっぱちょっと全編でテンポがひたすらに好すぎて、余韻とかを心地好く感じる暇が無い、とも)。後々、6時間バージョンのディレクターズ・カットとか出た暁には、すぐさま飛び付いて観てしまう…とは思いますケドね。
Yuki2Invyさん [映画館(字幕)] 8点(2024-03-29 23:59:55)
1.《ネタバレ》 IMAXで鑑賞。
圧倒的な説明不足により全体の半分も理解できませんでした。
SFならいざ知らず史実映画でこれはマイナス評価をつけざるを得ない。
終盤、名誉回復したオッペンハイマーの受賞パーティで、テラーを睨みつけるエミリー・ブラントに唯一人間らしさを感じた。
彼女が助演女優賞を取らなかった事が唯一残念。

4/24、2度目の鑑賞。もうじき我が街のIMAXシアターはコナンに全て奪われるので。
初見ではさっぱり理解できなかったが2度目では逆にほぼ理解できた。
登場人物の多さとセリフの多さについて行けなかったが、ストーリーの概略が分かっている2度目ではまごつく事がほとんどない。
この映画はその意味でサブスク向きかもしれない。私みたいに定年退職後のヒマな年寄りは劇場で2度見ることに抵抗がないが。
が、2度見ても意見や感想にアップデートする事は特に無かった。
この映画がアカデミー賞を取るのなら「インターステラー」で取って欲しかった。
エミリー・ブラントがアカデミー賞にはふさわしい。
ぴのづかさん [映画館(字幕)] 6点(2024-03-29 21:03:10)
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【点数情報】

Review人数 39人
平均点数 6.38点
000.00%
112.56%
200.00%
3410.26%
400.00%
5512.82%
61025.64%
7615.38%
8820.51%
9512.82%
1000.00%

【その他点数情報】

No名前平均Review数
1 邦題マッチング評価 6.00点 Review3人
2 ストーリー評価 5.00点 Review4人
3 鑑賞後の後味 5.25点 Review4人
4 音楽評価 3.66点 Review3人
5 感泣評価 3.33点 Review3人
chart

【アカデミー賞 情報】

2023年 96回
作品賞 受賞 
主演男優賞キリアン・マーフィ受賞 
助演男優賞ロバート・ダウニー・Jr受賞 
助演女優賞エミリー・ブラント候補(ノミネート) 
監督賞クリストファー・ノーラン受賞 
撮影賞ホイテ・ヴァン・ホイテマ受賞 
作曲賞(ドラマ)ルドウィグ・ゴランソン受賞 
音響賞 候補(ノミネート) 
美術賞 候補(ノミネート) 
衣装デザイン賞 候補(ノミネート) 
脚色賞クリストファー・ノーラン候補(ノミネート) 
編集賞 受賞 
メイクアップ&ヘアスタイリング賞 候補(ノミネート) 

【ゴールデングローブ賞 情報】

2023年 81回
作品賞(ドラマ部門) 受賞 
主演男優賞(ドラマ部門)キリアン・マーフィ受賞 
助演女優賞エミリー・ブラント候補(ノミネート) 
助演男優賞ロバート・ダウニー・Jr受賞 
監督賞クリストファー・ノーラン受賞 
脚本賞クリストファー・ノーラン候補(ノミネート) 
作曲賞ルドウィグ・ゴランソン受賞 
シネマティック&Box Office業績賞 候補(ノミネート) 

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