1.《ネタバレ》 『フロリダ・プロジェクト』や『レッドロケット』のショーン・ベイカー監督が、ついに賞レースの最前線へ! しかもテーマは、ストリッパーとロシア人富豪のバカ息子の恋? うわ、めっちゃ面白そう、っていうか絶対面白い、という諸々のハードル上がりまくった状態で映画館へ。
結論としては、うーん・・・思ったのとは違った。それにいままでのショーン・ベイカー作品と比べるとちょっと飲み込めない部分もある。
「恋愛成就からその後まで」映画といえば『ラ・ラ・ランド』をはじめ珍しいパターンではない。この映画の奥深さは「それって恋愛なの?」という疑問がそこに挟まれていることだ。ストリッパーと客として出会い、前半は基本的に短いセックスシーンと乱痴気騒ぎの連続。そんな「底の浅さ」の頂点に「ラスベガスでの結婚」がある。そんな軽薄極まりない結婚に「シンデレラ・ストーリー」を見出すのが「新しさ」なのか?といろいろ疑問が頭に・・・。そこから、物語は俄然面白くなる。それまでの短いカットでポンポンと進んできたストーリーと比べると、無駄に長いポンコツ三人組との組んずほぐれつの格闘シーン。ここで、とにかく屈しない主人公アノーラ。ここで初めて、アノーラという主人公の核が見えて、物語がクリアになる。
その後のイヴァン捜索のグダグダからラストまでの展開にはハッとする瞬間もあったけれど、とくにロシア人父母が登場してからはモヤモヤが。アノーラを含めて全員クズなんだけど、それが何重にも重なるやりとりがイマイチ心に響いてこない。それはたぶん、あのロシア人一家がわかりやすい悪役で心を許せる要素がほとんどなかったせいだと思う。クズがクズであることの人間的な魅力はやっぱり社会の周縁にあってこそなんだと実感。富豪一家は本当に単なるクズで、いまの世界をかき回している有害なクズたちの姿に重なって、ただただ不愉快だった(今朝あいつとあいつの腰巾着がウクライナ大統領に放った暴言の数々をみちゃったから、なおさら不愉快)。
だから、ラストがあの二人のシーンになったのは必然だし、そこは本当に素晴らしい。雪の風景、音の演出、そしてアノーラの涙。「それって恋愛なの?」という最初に抱いた疑問が、ここで深く突き刺さる。マイキー・マディソンにオスカー主演女優賞とってほしい!と心から思えた幕引きでした。