8.《ネタバレ》 渡世の掟のみを心の拠り所に生きる伊佐蔵を演じる市川雷蔵に高倉健とは違う重みを感じる。父子の関わりがひとり狼にそぐわないのだが、決闘後に去って行く後ろ姿はさすがに切ないものがあった。美味しい役どころの長門勇の好演も印象的。 |
★7.《ネタバレ》 市川雷蔵、良いですねぇ。 正直に告白すると、これまで観賞してきた彼の主演作にはあまり「当たり」が無かったりもしたのですが、これは間違いなく「面白かった」と言える一品。 主演俳優のカリスマ性の高さに、映画全体のクオリティが追い付いているように感じられました。
オープニング曲で映画のあらすじを語ってみせるかのような手法からして、何だか愛嬌があって憎めないのですが、本作の一番面白いところは「理想的な博徒とは、こういうものだよ」と、懇切丁寧に描いてみせた点にあるのでしょうね。 賭場で儲けても、勝ち逃げはしないで、最後はキッチリ負けてみせて相手方の面目を立たせる。 出された食事は、魚の骨に至るまで全て頂き、おかわりなどは望まない。 たとえ殺し合っている最中でも、出入りが片付いたと聞かされれば「無駄働きはしない」とばかりに、刀を収めてみせる。 一つ一つを抜き出せば、それほど衝撃的な事柄でも無かったりするのですが、映画全体に亘って、この「博徒の作法」とも言うべき美意識が徹底して描かれている為、そういうものなんだろうなと、思わず納得させられてしまうのです。
数少ない不満点は、主人公の伊三蔵が「卒塔婆が云々」と、声に出して呟いてしまう演出くらいですね。 これには流石に(気障だなぁ……)と、少々距離を感じてしまいました。 その他、ヒロイン格であるはずの由乃の言動が、ちょっと酷いんじゃないかなとも思いますが、まぁ武家の娘なら仕方ないかと、ギリギリで納得出来る範囲内。 そんな由乃から、手切れ金のように小判を渡され、一人で逃げるようにと伝えられる場面。 そこで、雨の中に小判を投げ捨て、啖呵を切って走り去る主人公の姿なんかも、妙に恰好良かったりして、痺れちゃいましたね。 たとえ本心では無かったとしても、ここで自棄になって「堕胎」を仄めかしてしまったからこそ、最後まで伊三蔵は我が子から「おじちゃん」呼ばわりされるまま、親子として向き合う事は出来なかったのだな……と思えば、何とも切ない。 「父上は亡くなられた」「立派なお侍だった」と語る我が子を見つめる際の、寂し気な笑顔のような表情も、実に味わい深いものがありました。
そして、それらの因縁が積み重なった末に発せられる「これが人間の屑のするこった」「しっかりと見ているんだぞ」からの立ち回りは、本当に息を飲む凄さ。 同時期の俳優、勝新太郎などに比べると、市川雷蔵の殺陣の動きは、少々見劣りする印象もあったりしたのですが、それを逆手に取るように「傷付いた身体で、みっともなく足掻きながら敵と戦う主人公の、泥臭い格好良さ」を描いているのですよね。 その姿は、傷一つ負わない無敵の剣客なんかよりも、ずっと気高く美しいものであるように感じられました。
終局にて発せられる「縁と命があったら、また会おうぜ」という別れの台詞も、完璧なまでの格好良さ。 市川雷蔵ここにあり! と歓声をあげたくなるような、見事な映画でありました。 【ゆき】さん [DVD(邦画)] 8点(2016-07-20 01:21:28) |
6.《ネタバレ》 村上元三がなかなか映画化の許可を出さなかった原作を雷蔵主演で映画化した股旅時代劇。雷蔵の股旅ものはあまり見た記憶がないが、こういうアウトローな役柄を演じていてもピッタリとハマっているし、カッコいい。それに雷蔵念願の企画だけあって、本作の雷蔵がそうとうこの役に入れ込んでいるのが分かり、その演技は素晴らしいの一言で、この前見た「眠狂四郎 女地獄」と同じく雷蔵にとって晩年の主演作だが、本作はその雷蔵晩年の代表作とも言っていいのではないかと思う。映画としても見ごたえじゅうぶんで長門勇演じる渡世人(これがいい味出してる。)の回想形式でストーリーが展開していくという構成がいいし、主人公 伊三蔵の渡世人としての悲しみや孤独がうまく描かれていてドラマ性も高く、作り手の良い映画を作ろうという意気込みがよく感じられる傑作である。前半で渡世人の作法を細かく描いていたのも新鮮だった。(ほかに今まで見た時代劇では市川崑監督の「股旅」くらいしか思い浮かばない。)印象に残るのはやはり伊三蔵が自分の息子と話すシーン、実子を前に父親と名乗ることのできない伊三蔵の辛さには思わず感情移入せざるを得ない。それにラスト、伊三蔵が息子にいう「見ろ!人間の屑のすることを。」というセリフがなんとも切なく、心に残る。 【イニシャルK】さん [DVD(邦画)] 8点(2014-08-08 00:04:31) (良:1票) |
5.《ネタバレ》 そうか!山田洋次の「寅さん」や高倉健の出てる映画は、時代劇の股旅ものを踏襲してんだ。それか、時代の空気が時代劇にも現代劇にも、こんな人情もののスタイルを生んだのか?う~ん、そこらへんはこれから時代劇を観ていく上での問題意識だ。それにしても市川雷蔵さんて女性にもてるねぇ。そして男を敵にする。それは彼の「大菩薩峠」でも一緒だった。映画の本なんかで見ると、普段着の市川雷蔵って、韓国のペヨンジュンに似てるんだよね、どこか。きっと当時のおばちゃんたちのアイドル的役目も果たしてたんだろうね。今回は女にもてる彼に、同じ股旅の友だちが助っ人に出てくるところが新鮮だった。男に嫌われてる役ばっかりじゃないんだね。 【トント】さん [DVD(邦画)] 7点(2014-05-25 12:15:14) (良:1票) |
4.市川雷蔵による股旅物で、見応え十分です。何と言っても市川雷蔵が格好良く、後ろ姿といいただ歩くだけでも絵になる。そんな市川雷蔵に語り掛けるようにして寄り添ってくる長門勇も良い味出してる。雪の中での決闘シーンも迫力十分な上に美しい。小池朝雄の悪人ぶりも良いし、作品全体から漂う格好良さとロードムード的な時代劇としての面白さを十分に味わうことができた。眠狂四郎とはまた一味違う市川雷蔵の魅力を感じる事ができる作品。 【青観】さん [DVD(邦画)] 8点(2014-01-26 13:35:34) |
3.《ネタバレ》 私も主題歌に引いたクチです。最初に見たとき、それだけで気持ちが萎えてしまって、あとがひたすら辛かった記憶があります。十数年ぶりに、改めて、主題歌を軽く受け流して、本編を見たら、まあ、すばらしいこと! 過去に心に傷を負った一匹狼ってのは、雷蔵の演じるキャラのひとつの典型だけど、それをここでの雷蔵は期待以上にこなしている。ただ、もう、最晩年の病に蝕まれつつある雷蔵の顔は、本当に見ていて辛い。表情の鋭さはあるものの、決して健康的ではない。映画のすばらしさの一方で、その雷蔵の容色の衰えが気になって仕方ないのが玉に瑕。 【いのうえ】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-07-03 20:39:09) |
2.《ネタバレ》 オープニングから流れるウィリー・沖山の「ひとり狼のテーマ」にガクッ。ダサい、ダサすぎる。ところが雷蔵の映画としてはベストの演技、最高の一本でしょう。渡世人であることの悲しみと寂しさ、感情を表に出さない「ひとり狼」が自分の息子に向かって叫ぶ「見ろ、人間のクズのする事を!」涙なくしては見れません。 これが雷蔵の「白鳥の歌」。 【Nbu2】さん [映画館(邦画)] 8点(2006-04-15 02:05:19) |
1.「俺にドスを抜かせるな 無駄な死人がまた増える 月の木曽路に影をさく 一本どっこの凄い奴!」 雷蔵主演の股旅もの。今まで見てきた股旅ものでも最高クラスに面白かった。長門勇から語られる展開ってのがいい。小池朝雄・遠藤辰雄・内田朝雄と、この悪役三人が共演してる作品ってのも珍しいんじゃないかな。マイナスは女優さんに魅力を感じないというかいまいち印象に残らないことか...。 【バカ王子】さん [DVD(字幕)] 8点(2005-12-06 00:32:29) |