14.《ネタバレ》 ※すみません、以下長文です※
3時間の超大作、とても観応えあり。
でも私は及第点(5点)を付ける。
その理由は以下。
3つの時系列を巧みに操る緻密な構成は流石ノーラン、この構成で3時間突っ走るのは並大抵の技量の監督さんでは無理だと思う。
時折織り込まれるオッペンハイマーが夢想?妄想?する量子力学を視覚化したかの様なイメージシーンがとても魅力的。
天才が普段感じている感覚とはこういうものなのか?と疑似体験させてくれている様で映像の力を感じる。
鑑賞し終えてアカデミー助演女優賞はエミリー・ブラントが受賞するべきだったと痛感する。
それ位力の入った素晴らしい演技をしている。
彼女の喜怒哀楽を情感込めて演じている様を観るだけでも入場料の価値は有る。
翻って、本作のテーマでもある原爆に付いては、私が被爆国である日本(今や「唯一の」とは言えなくなったが)国民で有る事を差し引いても、正直なところ途中から怒りを感じる位に極度な生温さを感じた。
オッペンハイマーは決して功名心から原爆製造を指揮したのでは無く、戦争に突入していた時代背景(戦争の為ならばいわば無尽蔵に金が使える。実際に町を作ってしまった程)や、当時はまだ机上の空論と位置付けられていたらしい量子力学を自分の目で具体的に見る事が出来る「原爆」と言う手っ取り早い方法に対し、科学者故の好奇心・探求心から抗い難い魅力を感じてしまったのかと思える。
だが、それ以降の広島と長崎への実際の原爆投下を経て彼がその「効果」を目の当たりにし、以降の水爆製造への反対運動やそれが転じて赤狩りの対象となり、いわば転落の人生を迎える事になる程に彼が反対と思うに至った「効果」の描写が、本作では極めて抽象的に描かれ過ぎていて、教育の一環として広島・長崎の惨状を知っている日本人ならともかく、『第二次大戦を早期終了させた(←この言葉には反吐が出る!)』と教えられている彼の国を筆頭に他の国々の人達にはどうにも説得力に欠けているのではと思わざるを得ない。
何も私はノーラン監督に広島と長崎の惨状を写実的に・リアリスティックに描いてほしかったとは思っていない。
過去の監督作で彼の映像作家としての力量にひれ伏した身としては、ノーラン監督なりのもっと観る側の感情を揺さぶる、
一度見たら決して忘れる事が出来ない程の映像の力で広島と長崎の惨状を表現できた筈だと思ってしまうのだ。
もう一線踏み込んでいれば、反戦・反核映画として映画史上に残る稀代の名作に成り得たのにと思うと残念で仕方がない。
最後に、本作鑑賞の前に以下を一読・一見しておく事を強くお勧めします。
・オッペンハイマーのWikipedia。これを読んでも本作の場合はネタバレにはならないと私は思います。
・BS朝日で2024/3/16に放送された「町山智弘のアメリカの今を知るTV」...ロス・アラモスのDownwindersと呼ばれる人達=いわば世界最初の原爆による被爆者達の事を私は知りませんでした。 この事実を知り、本作の作成の裏で何が有ったのかと勘ぐってしまった程です。
世界各国の老若男女が観て議論するべき作品で有る事は間違いないのですが、上記諸々含め私の採点は5点です。