4.《ネタバレ》 数あるフィルム・ノワールの中では貴重な実録犯罪もの。
ロサンゼルスで起きた警官殺しの犯人を総力を上げて突き止めようとするロス市警。そんな警察の死に物狂いの奮闘をあざ笑うかのように捜査網をすり抜けて犯罪を重ねる百戦錬磨の(といっても若いが)主人公。
この男、凶悪だが冷静沈着で頭脳が冴えまくった知能犯(メカにも強い!)で、警察の動きをすっかり読み取り、決して無謀な動きには出ないので、警察もなかなか尻尾が掴めない。この焦燥感が爽快ですらある。
特筆すべきは、科学的捜査がまだ発展途上の段階にあった時代、銃弾の鑑識や犯人のモンタージュ(ただし似顔絵)作成といった当時として最先端であろう捜査のプロセスが克明に描かれている点である。このあたりは警察の事件ファイルに依拠して入念に作り込まれた充実感がある。
そして主演のリチャード・ベイスハートが美男ながらも時折みせる、自らの孤独を美酒を味わうかのような気色の悪い笑顔と、何を世間に対して怒っているんだろうという得体の知れない禍々しいニヒリズムを表現して絶妙である。ただし、動機も含めてこの犯人の人間像の掘り下げがほぼ無に等しいのが物足りなくはある。そこはこの映画の趣旨がロス市警の尽力による犯人追及に重きを置き、センチメンタルな展開に流されまいという制作側の意図の表れとみるべきか。
また、多くで指摘されているように、主人公のアップや自室、そしてラストの地下排水路における光と影を駆使した緊張感溢れる映像美も秀逸である。
あっけない結末といってしまえば身も蓋もないが、主人公に絶命の寸前で何か一言喋らせてほしかった。