1.《ネタバレ》 ポール・ヴァーホーヴェンがハリウッドに行く前にオランダで撮った五本の長編映画の一編です。“娼婦”なんて邦題がついているけど、実は五本の中でいちばん大人しい映画なのかもしれません。ケイティ・ティッペルという女性の自伝小説が原作で、この人はなんとノーベル文学賞の候補になったことがあったそうです。 時は1881年のオランダ、ケティは貧しい労働者の家庭の生まれ。五人姉弟の二女だけど姉はしょうもないアバズレ、アムステルダムで娼婦をして家族を養っています。母親は長女に「もっと稼いで来い!」とハッパをかけるとんでもない鬼母です。雨が降ると家中くるぶしまで浸水、暖を摂る為に家族全員の靴を燃やしたり、ここら辺の貧困描写はヴァーホーヴェンらしく容赦ないです。仕事もクビになりよくあるパターンでケティも娼婦になるのですが、姉の様に娼館勤めではなく街娼(俗に言う立ちんぼってやつです)、しかもヒモよろしく母親が見張っているときます、ほんとに怖―いおばはんです。ところが商売中に知り合った画家のモデルになり、彼を含む三人の男がケティの運命を変えることになります。 結論から言うと後年自伝を書く作家になるぐらいですからハッピーエンドは当然のごとく予想できますが、『マイ・フェア・レディ』のヴァーホーヴェン版になってもおかしくないけど、そう単純な撮り方を彼がするわけないですよね。オランダ時代のヴァーホーヴェンは反権力・左翼的な視点が目立つ撮り方をしていますが、本作でも労働運動や極端な貧富の差などの社会矛盾が前面に出されていて、それに翻弄されながらも逞しく生きるヒロイン像が描かれています。ケティ役はモニク・ヴァン・デ・ヴェン、『ルトガー・ハウアー/危険な愛』では脱ぎまくってとんでもない演技を見せてくれた当時のヴァーホーヴェンのミューズです。本作では脱ぎはしますが比べたら大人しいもので、これは当時彼女と実質的な夫婦関係だった撮影のヤン・デ・ボンに遠慮したみたいです。ルトガー・ハウアーは気障な銀行員というキャラで出演ですけど、彼らしくないなんか可愛らしいルックスでした。 なんか大河小説の抜粋版の映像化というのが印象ですが、ヴァーホーヴェンはプロデューサーの介入が多かったとブツクサ言っていたそうです。それでも音楽なんかに青春もの映画のような雰囲気があったりして、ヴァーホーヴェンらしい味わいがあったのは確かです。