39.《ネタバレ》 良い作品ですね。
主人公のサリーはロシアから逃れた、元画家の偽札作りの名人で小悪党然とした男ですが
彼の特技は天性、人の本質を見抜く力が有り、それにより彼は生き延び様とする。
当時、写真はごく限られた上流階級にしか縁が無く、カメラ自体も超高価で
下層階級の人間は街で似顔絵を書く、似顔絵師という連中に似顔絵を描いて貰っていた。
つまり、そこまで考え抜いて、あえて危険を承知で伍長に
「絵を書いたのは私です」と、名乗り出る事で自分を特技を売り込んだ訳です。
目論見は図に当たり、単純な伍長はご満悦で自分の似顔絵を書かせ
ウマイい具合にそこへ隊長まで通り掛かってお駄賃に食料を貰う事が出来た。
と、まあ、機を見るに敏と言いますか、実に抜け目の無い男なのです。
そんな男が移送先でバッタリと出会ったのが
以前贋札作りで逮捕された犯罪捜査局のヘルツォークと
共産主義者のブルガーという若者だった。
このヘルツォークも実はサリーと同じく、抜け目ない奴で
たぶんサリーを知っていたからこそ
ヒムラーにベルンハルト作戦(偽札作戦)を進言したのかも知れない。
実に食えない男です。
また、ブルガーはサリーと正反対な理想主義者です。
ある意味、死にたがっているとも言える程に現状に絶望している。
サリーが単純な小悪党に終らないのはその精神の根底に
「悪党に成り下がった現在の自分」と「ロシアで捨てたはずの理想や同胞意識をむき出しにした過去の自分」
の両方が有ったからでしょう。
彼が単なる小悪党ならブルガーをナチに売っています。
それをせずに極限状態の中で何度も危ない橋を渡りながら
ブルガーや仲間達を庇ったのは、ブルガーの中に過去の自分を見たからであり
忘れ掛けていた同胞意識の目覚めと相まって、彼等を助ける事が目標に成った。
逆に言えばブルガー等を庇うサリーの立場をギリギリまで立てて
事を遂行しようとしたヘルツォークも、タダ者ではないと言えますね。
現に偽ポンド札の製作には大成功して、実際にトンでもない額が当時の市場に流れてしまいました。
サリーは戦後、マンマとヘルツォークから贋札を奪って逃げ失せますが
結局思い直して、カジノでわざと全部スッてしまう。この辺りはまあ、出来過ぎですな(笑)
しかし、この手の映画の中では、実に小気味良く、しかしちゃんと内容有る作品に仕上がっています。