1.《ネタバレ》 ロベール・ブレッソン監督作としては、遺作の『ラルジャン』と似た味わい。
その映像たるは、恐ろしいほどに澄み切っていて、透明度が高い。
この美しい映像の中で、ロベール・ブレッソンの手腕が遺憾なく発揮されている。
主人公の男は、これまたおそろしいほどに美青年で、おそらく女性ならこの俳優を観ているだけで楽しめるだろう。
しかし、この主人公は全てにおいて、社会と隔絶した考え方を持っており、ひと癖もふた癖もある人物設定で、実にとっつきにくいキャラである。
ところが、そんなとっつきにくいキャラであるにも関わらず、彼は世の中で居場所を失い苦悩しており、同情に似た共感を観る者に与えてくれる。
美しい映像の中で、美しい青年が、苦悩の果てにその命を散らせていく。
実に破滅的でいて、美しい世界観が展開されていく。
青年は頭も良く外見も良いのに、自ら命を捨てる。
それは絶望の果てに、彼が選択せざるを得なかった唯一の選択肢だった。
人は馬鹿に生まれて外見も悪ければ、不屈の精神で生きる道をさぐるべく生へのモチベーションを得ることもあろうが、この青年のように頭も良くて外見が良いと、逆の道を辿り、破滅死に追い込まれることがある。
どちらの人生が良いのか?
どちらに生まれれば幸せなのか?
そういった深淵なテーマについて、考えさせられる作品だった。
本作は、ロベール・ブレッソン作品としては、初期の傑作群にはやや及ばないものの、晩年の作品として評価の高い『ラルジャン』に匹敵する作品であると思う。