37.《ネタバレ》 素晴らしい作品だ。
アメリカでの評価の高さは伊達ではない。
二人の男女の関係を、幸せだった“過去”と、崩壊寸前の“現在”を対比させながら繊細に描き出している。
浮気をしたり、暴力をふるったり、ドラッグをしたりするような特別な問題が彼らにあるわけではない。
特別な問題がないにも関わらず、二人の関係の亀裂が徐々に大きくなり、元に戻すことができない溝へと広がっていくさまが描かれていることは評価したい。
やや抽象的に描くことにより、観客はより共感しやすくなったのではないか。
具体的に描くよりも抽象的に描くことは容易なことではなく、監督にも俳優にももちろん高いレベルが必要であろう。
仕事よりも家族との時間を大切にしたい男と、家族を大切にしながらも仕事で評価されたい女、お互いに愛しているのに、心がすれ違うさまを見事に描き出されている。
パートナーが自己の才能を浪費して自堕落な生活を送っていると感じる女、パートナーが家族よりも仕事を優先していると感じる男、離れていくお互いの心をなんとか戻そうとしているのに、傷つけることでしかお互いに向き合えない二人がいる。
過去に理解し合えたはずなのに、なぜ傷つけあってしまうのか、人間というもの、男女の関係というもののもどかしさを切なく味あわせてくれる良作だ。
ラストに子どもが父親を呼ぶ姿が印象的ともなっている。
心が傷ついた子どもがまた大きくなり、同じような過ちを繰り返さないことを祈るばかりだ。
また、彼が彼女に贈った曲の歌詞や、泊まったホテルの部屋の名前なども未来を暗示させており、いい効果を発揮している。
泊まったホテルで男が掛けた曲に込められた“思い”など、彼の心情を深く感じ取れるということも良い手法だ。
カップルが鑑賞するにはかなり厳しい作品かもしれないが、個人的には逆にカップルに鑑賞して欲しい作品だ。
反面教師的な役割となり、このようにならないために、お互いがお互いのことを考えられるようになるだろう。
愛し合ったカップルが年月を経ることによって徐々に気持ちが離れて、別れることが必然だということが、本作のメッセージだとは思っていない。
多くのカップルの中には、そのようなカップルもいるということを描いているに過ぎない。
どうすればこのようにならないかという“答え”はもちろん存在しないが、お互いがお互いのことを考えるしかない。