4.《ネタバレ》 被災の直接描写は省略されているが、どうせもう見たくないので結構だ。死んではならない多くの人々が死んで、自分などが生きているのが情けない。劇中では若い女性がそのようなことを言っていたが、この人物にこの台詞は似合わない。
ところで原作の登場人物のうち、映画では民生委員の人物を主人公とすることで“人間の尊厳”に焦点を当てようとしていたらしく、これは題名との関係でも妥当と思われる。ただし原作では、被災地で働いた全ての人々がそれぞれの職務を果たそうと苦闘したことを伝えているのに対し、映画ではいちいち大げさに嘆いてみせる饒舌なこの主人公が特別の存在感を発揮していたのは正直なところ違和感を覚えた。
また原作は現地の実態を淡々と伝えようとしたかに見えているが、映画では明らかに独自のお話を作っているのがどうも気になる。現実には肉親のことを後回しにしても職務を優先した人々が多くいたはずだが、映画では友人と連絡が取れないという理由で部屋の隅に隠れてしまうような人物をわざわざ出してきて、こんな男の成長物語など見たくもないという気にさせられる。
そのほか原作から台詞だけを借りて来て周辺事情を伝えていないため、登場人物の真意がわからず苛立たしいだけの場面もある。こういう題材を扱ったものを低評価にすると人格を疑われるかも知れないが、残念ながらこの映画にはあまりいい点を付ける気にならない。
なお個別の場面としては、女性職員が小学生の遺体を見て泣き出したのは唐突で不自然だったが、ただし取り乱してしまってわけのわからない行動になっている様子自体は迫真の演技とも取れる。また目の前で娘を亡くした女性が他人を罵りながらも、実は言っていることが全て自分自身に向けられているのを全身で表現していたのは鬼気迫るものがあった。ほかにも女性の嗚咽は聞いていてつらいものが多かった。