28.《ネタバレ》 コメディ俳優のスティーブ・カレルがアカデミー賞にノミネートされたことが話題となっている本作。実在の事件を描いた陰鬱な雰囲気と、ひりつくような演技合戦が不気味に調和した1本になっている。 監督のベネット・ミラーの過去作品をみてみると、今は亡きP・S・ホフマンにアカデミー賞をもたらした「カポーティ」、そしてブラピ主演の野球ドラマ「マネー・ボール」がある。どちらも実在の人物にフォーカスした作品であり、もちろん本作でもその手腕を発揮している。 なぜ大企業の御曹司が、五輪のチャンピオンを殺したのか。結局その謎は明確には明らかにならない。しかし凶行に至ったデュポンの心境を、観客も一緒に推測できるような作りになっている点が面白い。 ドラマチックな脚色を排し、役者の演技でストーリーを引っ張っているのが素晴らしいところだ。 その空気感たるや、まるでサイコな恐ろしさを感じさせる出来であり、終始緊張を強いられる。 デュポンという男は、普通の人には理解できないほどの闇を心に秘めていたのだろう。欲しいものは何でも手に入るが、実は真の友達すらいないという特異な状況。母を愛する思いと、また認められたい(認めさせたい)という葛藤。 しかしながら何一つうまくはいかなかった。愛国心を共有する友人と、レスリングで結果を残したにも関わらず、結局母には永遠に認められなかったこと。その友人さえも、金で繋ぎ留めなければ側にはいてくれないこと。頂点に立つ男が、底辺の人々が持つような家庭を持っていなかったこと。 直接的なエピソードこそないが、デュポンの心が擦り切れ、ついには一線を越えてしまうまでが丁寧に描写されている。 また、天と地ほどの差がある人間が愛国心というキーワードで繋がるのも興味深い。彼らにとっての愛国心とは何か。 その名の通り国を思う気持ちには思えない。もしかしたら社会に適合できなかった彼らが、現実から逃れるために見つけた逃げ道だったのかもしれない。 デュポンと決別したシュルツ弟は、彼らの聖域であったレスリングを離れ、それでもなおUSAの声援を背に浴びる。焦燥や自己弁護、(彼らにとって)の愛国心を感じさせるラストまでも恐ろしく、最後まで気を抜くことができない。 【サムサッカー・サム】さん [映画館(字幕)] 8点(2015-02-25 13:47:26) (良:2票) |
27.《ネタバレ》 大金持ちが統合失調症とは、恐ろしい。 序盤から金持ち特有の傲慢さが非常に鼻につくデュポンに、こんな失礼な豪族とは友達になんてなれっこないと思っていたらやっぱり。 人を招くときは、下から出るもんですよ。主従の契約をして初めて、業務に必要な上下関係を表面上演じるんです。この段階で友達ごっこなどは、逆に要らんのです。 金で買えないものの筆頭とは、(無償の)愛と(無償の)友情でしょうが、無いものが欲しくなるのはお金持ちとしては、微妙です。 多分与えられた御曹司には、それがわからないんでしょうね。自分で築けば、判るものが。 単にいけ好かない大金持ちと思っていたら、病気でした。結果から逆算して罹患していたということになるのだなぁ。いやあ奇妙なものです。 全編暗いムードに覆われていて、怖くて怖くてしょうがない。三人の演技がいいと云われるのも納得の面白さでした。 【うまシネマ】さん [インターネット(字幕)] 7点(2019-12-29 13:24:29) (良:1票) |
26.《ネタバレ》 生まれつきお金がありあまる環境で育つのって良くないな。”何でも手に入る”ということは”何も得られない”のと同じこと。 この富豪の男が真に欲しかったのは母親の承認だもの。レスリングへの。翻って自分自身への。でも彼女の死によって永遠に手に入らなくなってしまった。 模型機関車に続き、きっとレスリングにもまた飽きるだろう。欲しい欲しい、自分への承認が。お追従ではなく真の人間関係が。鉄仮面のような無表情の下で、しかしジョンは確かに叫び続けていて、S・カレルの怖く哀れな名演だった。 自分の欲するものを全て持っているデイヴ。人望もレスリングの技術も。心の奥底で煮えるような嫉妬心はモーツァルトに対するサリエリのよう。もう少し、物語に起伏があったらスポーツ版アマデウスとも呼ぶべき名作になったかな。 【tottoko】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2016-10-02 00:49:53) (良:1票) |
25.僕は幼稚な男である。だから映画も、どっちかと言えばアクションバリバリとか、ホラードキドキとかわかいやすい映画に惹かれちゃうのである。この映画は、アクションバリバリとかホラードキドキとかの映画ではもちろんない。重苦しく淡々としたトーンで、全然興味のないレスリングに関わる人間を描いた実話ベースの映画である。こんなジメジメ、ドヨンドヨンした映画、普通なら退屈に感じるはずなんだけど、なぜか、映画が始まってから、一向に退屈にならない。むしろ、のめり込んで観てしまっている自分がいる。なんでだろうと考えた。僕はどーやら変人を見ることが好きなのかもしれない。この映画では変人が二人も出てくる。残りの一人はリア充。この3人の関係性にドキドキしっぱなしなんだけど。特にデュポンのたたずまいはやばい。物事がうまくいってもテンションあがるわけじゃなく、ジーッと見てる。銃でいきなり天井撃ったり、自分を称えるビデオ撮ったり、やばい感が満載。マークのありったけの食い物を食べるシーンから、その後に、体重を90分で戻すくだりもやばすぎ。人間てあんなにすぐに体重上下できるんだ。もちろんそれだけじゃない。始終漂う緊張感、それと変人で、自分とは全く違う世界の人間なんだけど、どこか、その感じわかるわーってな箇所が作品の中にちりばめられているのも大きいかもしれない。泣いたりとか感動とか何かの感情が生まれることは一切なかった。終わったあと、心にズシーンときただけである。でも映画の世界にどっぷりつかったので、面白かったんでしょう。コンプレックスをこじらせると悲劇が生まれるのは、どこの世界でも一緒である。 【なにわ君】さん [DVD(字幕)] 10点(2016-08-31 02:59:37) (良:1票) |
24.《ネタバレ》 人間なら誰しもが抱く、承認欲求、自分が何者でもないことへの不安。社会、他者、物に対する依存。 デイヴはマークを庇護の下に置き、マークは理想である兄を追い続けた。デュポンの母は名誉に捕らわれた。 デュポンは母の影に支配され続けていた。そして、マークに対しては自分と同じもの(何者かの庇護の下にいる)を重ね合わせ、自分が持っていないカリスマ性を持つデイヴに対しては憧れを抱いていた。社会、母、デイヴという存在に捕らえられ、また自分もマークを庇護し捕らえようとしていた。 自分の下を離れるマーク。自分自身であるマークを失ってしまったデュポンはついに憧れの、理想の自分であるデイヴを殺してしまう。ついに支配、人間という生き物の輪廻から抜け出すことは出来なかった。 何かを常に捕らえるかのような客観的なカメラ視点が終始続く物語の中で、何者の視点でもないマーク自身の主観ショットで自ら柵に囲まれたリングに向かうマークはこの映画で唯一独立した存在、人間ではない何かに成り得たようにみえた。 【ちゃじじ】さん [DVD(字幕)] 8点(2015-12-31 21:19:33) (良:1票) |
23.ある意味でスポーツ映画ですが、いわゆるスポ根ものとは真逆。物語はあまりにも淡々と進行します。面白いかと言われれば素直には頷けないし、衝撃の結末にもただただ驚くばかりで、納得感はありません。 しかし、全編に貫かれたピンと張り詰めた緊張感と恐怖感は見もの。ふつう圧倒的な上下関係やパワハラを描くとなると、怒鳴ったり暴力を使ったり、陰謀で貶めたりして屈服させることが多いと思います。その点、スティーヴ・カレルは終始一貫冷静・無表情で、声を荒げることもありません。天井に向けて銃を一発撃つ程度です。それでいて、画面に登場するたびにヒヤッとさせられる。逆らったら大変な目に遭うぞと予感させられる。これが役者としての存在感なのか、それとも演出の妙なのかはわかりませんが、なかなか珍しい感覚を味わわせてもらいました。 ついでに言うと、いつもの明るく饒舌なスティーヴ・カレルを見たくなります。 【眉山】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-07-14 01:46:52) |
22.《ネタバレ》 ジョン・E・デュポンは明らかに母親には疎まれていたし、マーク・シュルツは兄に育てられた不幸だった家庭環境のせいで、自分を導いてくれる人間を常に求めている男。兄弟ともにとはいえオリンピック・レスリングの金メダルを獲得したスーパー・アスリートなのに、どこか自信なさげな表情が離れない男でもある。そんなマークとデュポンの出会いは、カルト教祖と信者のような関係の始まりだったと言えるでしょう。自家用ジェット機内でデュポンにコカインを勧められて戸惑いながらも手を出してしまったり、どんどんデュポンの領域にはまり込んでしまう。そんな二人の関係に結婚して穏やかな家庭を持つ兄デイヴが入り込んでくる。ある意味、これがマークを正気に戻してデュポン教から脱会することに繋がるけど、彼の身代わりになるかの様にデイヴがデュポンの沼に落ちてしまい悲劇的な結末を迎えることになる。 とまるで男同士の三角関係のような展開でもあるのですが、男同士が絡み合うレスリングがプロットなだけにホモセクシュアル的な雰囲気を感じる人もいたでしょう。また無音で暗転するシーンが多いのとロングで撮った引きの撮影が多いところもこの作品独特のリズムを形成しています。ベネット・ミラーはよく似たテイストの『カポーティ』を撮った人でもあり、暗い雰囲気の実話犯罪をモチーフにした映画は十八番なのかもしれません。スティーヴ・カレルとチャニング・テイタムの、全編を通してまったく笑顔を見せない演技も強烈な印象を与えてくれます。カレルに至ってはもう怪演と言える領域ですね。デュポンもそうですが、カーネギーやロックフェラーといったアメリカの古い財閥一族には、ジョン・E・デュポンの様な人間が存在する素地があるような気もします。 良く出来てると思うけど、観ていてほんと疲れたし万人にお奨めできる映画ではないかと思います。 観て気分が上がる要素は皆無でが、それでも俳優たちの濃い演技を堪能する愉しみはあったかと思います。 【S&S】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2022-10-22 22:20:10) |
21.《ネタバレ》 恐ろしい映画を見てしまいました。 オリンピック金メダルを目指すために悪魔に身を捧げてしまったレスリング選手の話しです。 フォックスキャッチャーと呼ばれる養成所にいるのは、終始冷酷な表情のジョン・デュポンという資産家。 その資産家の母親に対するコンプレックス。 欲望に対する完璧主義。 レスリング選手たちをまるで愛犬のように扱う態度。 全てが得られる瞬間を味わった時の絶望感。 登場人物の全てに見事感情移入できました。 これほど素晴らしい映画に出会ったのは久々です。 今はあの世にいるデュポンにとって、この映画は「事実とは違う」と言われるかもしれませんが、人間のエゴを描ききった傑作だと思います。 【クロエ】さん [CS・衛星(字幕)] 10点(2020-06-06 04:04:25) |
20.とっても気色の悪い映画。チャニング・テイタムに演技賞をあげて欲しかった。 【センブリーヌ】さん [インターネット(字幕)] 6点(2019-09-10 01:41:12) |
19.《ネタバレ》 兄弟の演技がとてもよかったなって思います。弟の無骨さ、兄の兄貴らしさが良かったです。映画に重厚さもあり雰囲気もあったのですが、事実に基づいた映画とはいえ、後味の悪い物語ですね。 【珈琲時間】さん [DVD(字幕)] 6点(2017-02-18 13:17:37) |
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18.高評価を聞き、鑑賞..う~ん、シリアスに真面目に描いているのは良いのだが..観ていて、とても 暗~く なってしまう 映画..どこが高評価なのか、分からない..共感も、感動も、まったく無し.. アメリカのスポーツもの って、どこか うさん臭くて、好きになれない..本作で言えば、レスリングをしている人たち(役者?)が、強く見えないし、練習風景、試合シーンが嘘っぽい..全然スポーツ選手独特のオーラが出てない..残念... 【コナンが一番】さん [DVD(字幕)] 6点(2016-07-21 21:43:32) |
17.《ネタバレ》 富める者がその気になれば人間だって買えてしまう。恐ろしいのは買われる者だけでなく、富む側もまた何かを失うという点。 冷静な視線を評価します。富貴な者の孤独を表す丁寧で繊細な描写。静けさに溢れるシーンにもどこかしら破滅を予兆させるような印象を受けて飽きがきません。上質な映画ですね。 【病気の犬】さん [DVD(字幕)] 6点(2016-06-27 17:21:07) |
16.《ネタバレ》 1980年代、レスリングの世界で揃って金メダルを手に入れたシュルツ兄弟。だが、私生活でも家族に恵まれ次のオリンピックに向けて精力的に活動する兄デイブとは対照的に、弟マークは長いスランプに喘いでいた。そんなマークにある日、とある男から連絡が入る。男の名は、ジョン・デュボン。アメリカ屈指の大財閥の御曹司だった。何よりもレスリングを愛するデュボンは、レスリングを下等なスポーツだと切り捨てる母親に反発するかのように、「君が金メダルを取れるように支援したい。必要なものは何でも揃える。私のチームに加わってくれ」とマークに依頼してくるのだった。優秀な兄を少しでも見返したいと願うマークは彼の依頼を快諾する。訪れた彼の屋敷で、「フォックスキャッチャー」というチームを立ち上げたマークだったが、次第にデュポンの歪んだ野心が彼の心を蝕んでゆく……。実際にあった金メダリスト射殺事件を元に、心に闇を抱えたアスリートたちの葛藤を終始淡々と見つめたヒューマン・ドラマ。金メダリストとして華々しく活躍する兄と、その陰で同じく金メダリストでありながら鬱屈した毎日を送る弟、そんな2人に忍び寄る怪しげな大富豪。実在した人物をリアルに演じた新旧個性派俳優の競演は確かに見応えありました。特にコンプレックスの塊のような主人公マークと、金と地位だけはあるもののその心には歪んだ虚栄心しか存在しない大富豪デュポンとの共依存関係――そこには幾分か同性愛の要素をも感じさせる――は非常に興味深いものがあり、社会に蔓延る悲劇はこうして生まれるのだと納得させる説得力には戦慄させられるものがあります。これぞ、実話を元にした作品の醍醐味だろう。ただ残念ながら、事実に寄り添いすぎたその演出手法はあまりにも淡々とし過ぎていて〝冗長で退屈〟と批判されても仕方ないと僕は感じてしまいました。徹底的に事実を再現した演出だからこそ、この社会の不条理を残酷に浮き彫りにしている(一番善人だった人が悲劇に見舞われる)とは思うのですが、映画として人を惹き込む最低限の面白さがもう少し欲しかった。最後に訪れる悲劇にしたって、どうしてそうなったのかという因果律を見る人それぞれの解釈にあまりにも委ねすぎていてちょっと肩透かし。主演俳優陣の抑えた熱演が良かっただけに残念です。 【かたゆき】さん [DVD(字幕)] 5点(2016-01-11 00:59:34) |
15.《ネタバレ》 スティーブ・カレルだとは気づかないまま見終わった。ビックリ! 彼の化けっぷりに加点したい気もしましたが、どうしても作品が嫌なので、この点です。まぁ、カレルが演技で醸し出している雰囲気が上手だということなのでしょうが、それがあまりにも気味悪いのです。 人間が抱え込んだ負のオーラがこの映画には充満してる感じです。それがウソっぽく劇的な表現ではなく、極めてリアルに平凡な日常を静かに包み込んでいるかのような表現で「おい、ちょっと空気読んどかないとヤバイ気がするんだけど…」という、ギリギリセーフ的な、鈍感で気づかないフリしたい人には「気にすんな」レベルで展開されます。それが気味悪いと同時に、この映画が一体どこへ向かっているのか分からない、かったるい展開でもあります。観ている人の運まで吸い取ってしまうかのようなマイナスオーラをビンビン感じて、とても嫌でした。 デュポンの母親が元凶で、ジョン・デュポンは悲しい被害者なんでしょうが、同情できはするものの、助けたり寄り添ったりしたくならない気味悪さが、とにかく強い。チャニング・テイタムがダメになっていく姿も静かに陰鬱。 銃を片手にぶら下げて練習場へやってきて天井撃ち抜くシーン、「もしかしてデュポンの男娼に?」と思ってしまうテラスのバリカンとマリファナのシーン、兄がカメラの前でデュポンへの敬意の言葉を強要されるシーン、去ったマークとデュポンが抱き合うカットで終わる売名ビデオ…じんわりと、でも暴力的に嫌な気分でした。心が弱る映画は好きになれないです。 【だみお】さん [DVD(字幕)] 3点(2015-12-24 23:14:11) |
14.そろそろ面白くなるのかなぁと辛抱強く待っていたけど とうとう面白くないまま映画が終わってしまった。。 |
13.非常に地味な映画です。地味が故に監督の手腕が問われます。その難問をベネット・ミラーは見事にクリアしてくれた。淡々と物語が進む中にきっちりと登場人物たちの内面を、丁寧に丁寧に、これでもかというくらい丁寧に描ききった。なのでどっぷりと感情移入することができ、常に緊迫感を維持しながら鑑賞することが出来た。ジョン・デュポンを演じたスティーヴ・カレル。どこを見ているのかよく分からない生気のない視線はとても印象深く、まるで機械人形のようだ。おかげでラストの発砲にいたるまで気が抜けませんでした。ほんと、見事な演技には脱帽です。ジョン・デュポンという人物ですが、彼が抱えていた闇は、多くの人達の中にあるものだと思う。他人事ではなく、写鏡のようで正直怖くなりました。明日は我が身かと。偉大な兄の存在にジレンマを抱えるマークもまた、他人事ではなかったです。この映画は非常に地味で、観る人によって評価は分かれると思います。ただ私は登場人物たちと怖いくらいシンクロ出来てしまったので、この点数を付けました。あと、テーマ曲のピアノの旋律も淡々としていて効果倍増でしたね。 |
12.《ネタバレ》 話題のデュポン氏は特殊メイクし過ぎて表情がわからなくなってしまっていると思います。射殺に至るまでの張りつめた緊張のようなものもなく、ただ淡々と2時間が過ぎていく感じ。丁寧でまじめな作風ですが面白くないです。 【DAIMETAL】さん [DVD(吹替)] 2点(2015-10-16 06:46:32) |
11.《ネタバレ》 憎まれ役たるジョン・デュポンが最高すぎます。そもそも根性がネジ曲がっている上に、自分は権力者だから何をやっても許されるという妙な自信もあって、やりたい放題が止まりません。デュポン本人に似せるためのガチガチの特殊メイクによりその顔は能面のように固まり、表情が読めなくなっていることもこの人物の恐ろしさの表現に貢献しており、莫大な富と権力を持つ異常者が何にキレるか分からないという緊張感が全編を貫いています。 よくよく考えてみれば、ジョン・デュポンは気の毒な人です。セレブパーティーでの立ち居振る舞いや、選手に向けての演説を見れば、決してバカではないことはわかります。普通の家に生まれついていれば程々に生きることもできたのでしょうが、彼は全米屈指の名門に生まれてしまった。最高でなければ許されない環境に生まれついてしまった凡人。上からはバカ扱いされ、下からは心にもないおべんちゃらばかり言われて50年も生きていれば、おかしくなっても不思議ではありません。 そんな中で出会ったのがマーク・シュルツでした。兄のデーブばかりが持て囃され、金メダル獲得という最高の結果を残しているにも関わらず金銭的にも人間的にも恵まれない境遇にいる孤独なアスリート。人間的な欠陥を抱えるジョンとマークは、出会うや否や、共依存の関係となります。ジョンによる破格のオファーは、「自分は能力と実績に見合った評価を受けていない」というマークの不満を解消するものだったし、そんなマークがスポーツ振興を掲げるジョンの主張に心酔したことは、ジョンの自己承認欲求を満たしました。もしかしたら、ジョンが心からの尊敬を受けたのは人生で初めてのことだったのかもしれません。 しかし、ダメ人間の二人では厳しい競技の世界で勝ち続けることができませんでした。スポーツファンの域を出ていないジョンは指導者になれなかったし、マークは自発的に物事を考えることができず、指導者不在でトレーニングが進みません。どうしようもなくなって呼ばれたのが兄・デーブですが、デーブはすぐにマークの支えとなり、ジョンとマークの依存関係は崩壊します。これがデーブ殺害のきっかけとなったようです。 問題は、映画としての面白みに欠けていたこと。存命中の関係者がいるため事実関係への配慮が随所に感じられ、映画としてのイベント作りが不足していました。雰囲気作りは良かっただけに、もう少し面白ければ。 【ザ・チャンバラ】さん [ブルーレイ(吹替)] 6点(2015-09-25 18:38:10) |
10.《ネタバレ》 ○さすがにラストは残酷だが、五輪で映画のピークを迎えると思わせながら嫉妬が招く悲劇というミスリードは何とも素晴らしかった。○スティーヴ・カレルのコメディイメージがいい前振りとなり怪演が引き立っている。ラファロ、テイタムももちろん素晴らしかったが。 【TOSHI】さん [映画館(字幕)] 7点(2015-05-17 16:07:54) |
9.映画全体の雰囲気がとにかく暗く、トーンも静かで終始重い空気が流れていました。主演3人の演技も圧巻で、テイタムとラファロはもう本物のレスラーにしか見えませんでした。スティーブ・カレルも見終った後デュポンの写真・映像を見ましたが、そっくりすぎてびっくり。内容が内容なだけに何回も見られる映画ではありませんが、非常に完成度の高い良くできた映画だと思いました。 |